リボ核酸合成酵素の特異性を分子レべルで解明
:産業技術総合研究所

 (独)産業技術総合研究所は5月9日、鋳型非依存性RNA(リボ核酸)合成酵素のうち、mRNA(メッセンジャーリボ核酸)の末端へポリA配列を合成付加するポリ付加酵素の特異性を分子レベルで明らかにしたと発表した。
 細胞内における遺伝情報は、DNA(デオキシリボ核酸)からmRNA、そしてタンパク質へという順で伝わっている。そのタンパク質合成の過程では、まずDNAの鎖を鋳型としてmRNAへ遺伝情報が転写される。しかし、その後mRNAの末端には、DNA上の配列とは無関係に数十から数百のアデニンヌクレオチド(ポリA配列)が、ポリA付加酵素と呼ばれる鋳型非依存性RNA合成酵素によって付加される。
 mRNAの末端に付加されたポリA配列は、遺伝子発現に重要な役割を担っていることがこれまでの研究で分かっているが、ポリA付加酵素の機能については未だに明らかになっていない。この酵素の活性が、生体内のどこで、どのタイミングで現れるかを解明することは、新たなRNA合成酵素のデザインだけでなく、新たな遺伝子発現の制御解明においても重要な課題となっている。
 今回の研究では、鋳型非依存性RNA合成酵素のうち、これまで産総研で解析を行ってきたCCA付加酵素とアミノ酸配列がよく似てはいるが、異なった活性を有するポリA付加酵素を対象として、X線結晶構造解析と生化学的な機能解析を行った。CCA付加酵素は、tRNA(転移リボ核酸)の末端にあるCCA配列を合成・付加する。
 その結果、[1]ポリA付加酵素の全体構造は、ヘッド、ネック、ボディ、レッグの4つのドメイン(部位)からなるラッコのような構造をしており、タツノオトシゴのようなCCA付加酵素の構造とは異なっていた。しかしながら、[2]ポリA付加酵素の活性触媒部位やヌクレオチド結合部位を含むヘッド、ネックドメインの構造は、CCA付加酵素のそれらの構造とよく似ている、ことなどが明らかになった。
 今後は、多種多様な遺伝子発現に関与する他の種類の鋳型非依存性RNA合成酵素についても詳細な分子レベルでの反応メカニズムや遺伝子の発現制御における役割の解明を目指すことにしている。
 この研究によりRNA合成酵素のデザイン開発が加速され、鋳型非依存性RNA合成酵素の反応制御を解明することで、新たな医薬開発への応用が期待される。

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