(独)産業技術総合研究所は5月11日、フレキシブルな薄膜トランジスタなどへの応用が期待されている単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を電気特性別に分離・回収する新手法の開発に成功したと発表した。産総研は今後、次世代半導体材料として電気的特性の揃ったSWCNTの量産技術を確立し、10年後の実用化を目指して共同で応用開発するパートナー企業を求めている。
SWCNTは、蜂の巣状に炭素原子が6角形のネットワークを組んだ直径0.7~4nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)ほどの微細な筒状材料で、6角形の並び方の違いで金属的性質を示したり、半導体的性質を示したりする。しかし、SWCNTは、金属型、半導体型という電気的性質の違いばかりでなく、同じ半導体型でも電気的特性が異なるものがあるため、実際の電子デバイスへの応用には特性ごとに分類が必要となる。
これまでの分離手法は、コストが高い上に、大量処理ができなかった。産総研も寒天のようなゲルを用いたSWCNT分離技術を幾つか開発しているが今回、これを更に発展させた。具体的には、これまで使っていた海藻から作る「アガロースゲル」ではなく、「セファクリル」という市販のゲルと安価な界面活性剤を使い、種々の電気特性のものが混じっている合成されたばかりのSWCNT分散液を処理する。
このゲルを詰めたカラム(筒状容器)を何個も直列につなぎ、上から順にSWCNTを注ぐと、最初のカラムで最もゲルに吸着し易い構造の半導体型SWCNTが吸着し、残りが2段目のカラムに注がれる。2段目では、1段目で吸着しなかったSWCNTの中で最も吸着し易い構造の半導体型SWCNTが吸着する。以下、同様に次々と下段のカラムで吸着されて行くという仕組み。
これは、SWCNTのゲルへの吸着力がSWCNTの構造によって異なるためと考えられ、この現象は産総研が発見した。後は、それぞれのカラムのゲルに吸着された半導体型SWCNTを個別に溶出すればよい。産総研は、ほぼ単一構造のSWCNT13種を分離するのに成功している。
この分離手法は、SWCNT分散液をゲルに通すだけの簡単なものだけに、自動化も容易で、コストも低く、大量処理が可能という。
No.2011-19
2011年5月9日~2011年5月15日