(独)産業技術総合研究所は4月27日、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を高効率で安全に作り、作製したiPS細胞を糖鎖プロファイリングという技術で調べ 、得られた様々なデータをシステムズ・バイオロジーで関連づけるというiPS細胞の産業応用を加速する革新的な技術を国立成育医療センターなどと共同で開発したと発表した。
iPS細胞は、体の様々な組織に分化する多能性を持つことから「万能細胞」とも呼ばれ、体細胞に特定の4つの初期化遺伝子(Oct4、Sox2、c-Myc、Klf4) をベクター(遺伝子の運び手)によって導入すると作製できる。しかし、初期化遺伝子が再活性化されて、細胞ががん化するのではないかという安全性の問題などが残されており、未だに臨床応用に必要な条件を満たすような技術は開発されていない。
産総研では、iPS細胞を高効率で安全に作る技術を開発するために、「センダイウイルスベクター」と呼ばれるベクターを基盤として、新たなRNA(リボ核酸)ウイルスベクターSeVdpを開発した。さらに、その新しいベクターを用いて、これまでにないユニークな特徴を持つiPS細胞作製技術を開発した。
また、品質を調べる評価技術では、「レクチン」というタンパク質を利用する糖鎖解析技術をさらに高めた「高密度レクチンマイクロアレイ」を開発した。糖鎖は、ブドウ糖などの糖類が鎖状につながった分子で、生体内の細胞の種類や状態によって細胞上の糖鎖を合成する遺伝子群の発現が異なる。先進的な糖鎖プロファイリングという解析技術で糖鎖を調べると、iPS細胞の特徴である未分化という状態を容易に判別できる。高密度レクチンマイクロアレイの開発によって、未分化細胞を特定する新たなマーカーとなる新種のレクチンも発見した。
iPS細胞の研究では、細胞内部や細胞表面のそれぞれの変化に関する研究は多いが、得られた様々なデータをつなげる研究は少ない。今回の研究では、iPS細胞内部の変化と細胞表面との変化の関連を分子レベルで解明することも目的とした。細胞内部の遺伝子発現はマイクロアレイで、細胞表面の糖鎖構造はレクチンアレイでそれぞれ計測した。さらに、システム・バイオロジーで遺伝子発現の研究と糖鎖発現の研究とのネットワークが連結できるようにする成果もあげることができた。
今回の研究成果は、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構の「iPS細胞等幹細胞産業応用促進基盤技術開発プロジェクト」の一環として、国立成育医療センターなどとの共同研究によって得られた。
No.2011-17
2011年4月25日~2011年5月1日