(独)産業技術総合研究所、筑波大学、(独)科学技術振興機構は3月3日、炭素のシート「グラフェン」が絶縁体基板である酸化シリコン上に吸着されると、その電子物性が基板との相互作用により半導体へと変わることを理論的に明らかにしたと発表した。
グラフェンは、炭素原子がハチの巣状に六角形の格子を形成して平たく連なった物質(六角形のネットワークを形成したシート)で、原子が一層からなる薄さと、そのシート上を非常に速く走る高移動度の電子が存在するという特徴から次世代の半導体エレクトロニクスデバイスの新材料として注目を集めている。
しかし、グラフェンを次世代デバイスとして応用するためには、既存のシリコン半導体デバイス構造において絶縁体として用いられている酸化シリコン膜との複合構造が、どのような機構により形成されて、どのような性質を持つのかを理論的に解明する必要がある。
今回の研究では、完全に欠陥のないグラフェンが、半導体デバイスにおいて絶縁体膜として用いられる酸化シリコンの表面に吸着したと仮定し、その時のグラフェンの電子構造の変化を、物質中の電子の状態を量子力学の基本法則に基づいて精密に求める「第一原理電子状態計算法」と呼ばれる方法を用いて詳しく調べた。
その結果、グラフェンが、酸化シリコン膜上で半導体に変わることを理論的に示すとともに、グラフェンの高い電子移動度をデバイスに利用するためには、基板も含めたグラフェン複合構造の電子物性の解明が重要であることを明らかにした。また、グラフェンと絶縁体基板との複合構造の制御により、金属であるグラフェンが完全な二次元半導体材料となる可能性を示した。
今後は、実際にデバイス化した際の構造の電子特性を解明するほか、酸化シリコン以外の絶縁体基板での解析も行うことにしている。
この研究は、JSTの「次世代エレクトロニクスデバイスの創出に資する革新材料・プロセス研究」の一環で行った。
No.2011-9
2011年2月28日~2011年3月6日