(独)産業技術総合研究所と高知大学は2月28日、地球磁場逆転の記録を高分解能の磁場検出装置で読み取ることにより、海底の鉱物「鉄マンガンクラスト」の形成年代と成長速度を迅速、正確に推定することに成功したと発表した。この鉱物には、海洋環境変動や気候変動の長期にわたる記録が残されていると見られており、研究チームは今回の分析手法によってそれらの情報を引き出せると期待している。 鉄マンガククラストは、鉄とマンガンの酸化物を主成分とし、海底の岩の表面に殻(から:クラスト)のように成長した鉱物。厚さ1mm程度の薄いものから40cmの厚いものまで存在する。成長は、極めて遅く、厚いものは数千万年かけて成長したとされる。その成長過程を調べることで長期にわたる地球環境情報の復元が期待されているが、これまでは形成年代の分析に多くの手間と時間がかかり、成長速度の推定などは困難だった。 研究チームは、今回、米国マサチューセッツ工科大学が開発した「SQUID(超電導量子干渉素子)顕微鏡」と呼ばれる最新の磁気検出装置を年代割り出しに応用し、形成年代と成長速度の推定に成功した。 地球は、その中心部に一種の棒磁石を備えている。現在は、磁石のN極が北極方向、S極が南極方向を指しているが、この地球磁場は過去に何度も逆転を起こしてきた。逆転の年代は、正確に把握されており、「標準地球磁場逆転年代軸」として確立している。何千万年もかかって成長した鉄マンガンクラフトには、その地球磁場逆転の記録がごく微弱で微細な磁気情報として刻み込まれている。従来の技術では、その微弱、微細な磁気情報を読み出せなかったが、高分解能のSQUID顕微鏡を用いることで読み取りが可能になった。得られた磁場画像の模様を標準地球磁場逆転年代軸と付き合わせることによって、成長した年代が推定でき、そこから成長速度を割り出せる。 研究チームは、ハワイ大学などと共同で北西太平洋で採取した鉄マンガンクラストを分析したところ、成長速度は百万年当たり5.1mmという結果を得た。ベリリウム同位体を用いる旧来の分析法だと同6.0mmだったという。 産総研は今後、SQUID顕微鏡の導入、開発を進め、鉄マンガンクラストの成長過程の迅速、詳細な解明を通して長期にわたる地球環境情報の精密な復元を目指したいとしている。 詳しくはこちら |  |
北西太平洋の海底から採取した鉄マンガンクラストの薄片の分析結果(提供:産業技術総合研究所) |
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