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植物の甘味成分グリチルリチンの酵母生産に成功―生薬の原料植物の乱獲防止と、健康機能性成分の工業生産に道:大阪大学/農業・食品産業技術総合研究機構ほか

(2020年11月16日発表)

 大阪大学大学院工学研究科の村中俊哉教授(理化学研究所客員主管研究員)らの研究グループは11月16日、漢方薬のカンゾウに含まれ、天然甘味料などの機能性成分のサポニン(トリテルペン配糖体)を合成するカギとなる酵素を発見し、甘味成分グリチルリチンを生成することに世界で初めて成功したと発表した。(国)農業・食品産業技術総合研究機構、(国)理化学研究所環境資源科学研究センターとの共同研究による成果。

 グリチルリチンはマメ科植物で生薬の原料のカンゾウに含まれる主成分で、砂糖の150~300倍もの甘みを持つ天然甘味料として知られる。メタボリック症候群の予防に役立つ甘味料と共に、コロナウイルスによるSARS(重症急性呼吸器症候群)などの抗ウイルス活性もあり、健康、医薬品原料として注目されている。

 原料は主に中国で自生するカンゾウから採取され、日本は全て輸入に頼ってきた。ところが中国でカンゾウの採取、輸出を規制する動きが出ており、今後の価格高騰や安定供給が心配されるようになった。

 これまでトリテルペン(サポニン)を含む植物低分子化合物が他の有機化合物と結合する(配糖体化)には、一群の酵素の働き(触媒)が必要と考えられてきた。しかしトリテルペン分子の骨格に糖(グルクロン酸)を転移する酵素が何かは分かっていなかった。

 研究グループは、既に機能が解明されている遺伝子の発現パターンとの類似性を参考にして、未知の遺伝子の機能を予測した。こうして植物細胞壁を作る多糖のセルロース合成酵素によく似た未知のたんぱく質の遺伝子を発見。トリテルペン骨格にクルグロン酸を転移する酵素であることを初めて明らかにした。

 さらにこの遺伝子を含む7個の植物酵素遺伝子を酵母に導入することで、グリチルリチンを生産する酵母作りに成功した。この酵素遺伝子を導入した酵母や植物培養細胞を用いたサポニンの工業生産化も可能になるとみている。

 グリチルリチンは糖質系ではない甘味料のため、メタボリック症候群の予防に役立つといわれる。原料のカンゾウは栽培したものではグリチルリチンの含有量が少なく、収穫までに数年の時間がかかるため、主に中国国内に自生するカンゾウの輸入に頼ってきた。

 近年、中国がカンゾウの採取、輸出を規制する資源外交を強めており、今回発見した遺伝子を導入した酵母や植物によって、サポニンの工業生産化が実現すると期待が高まっている。