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アンモニウムの活用で食料増産を実現し、窒素汚染をおさえる―植物自身がもつ硝化抑制によって温室効果ガスと地下水汚染を防止:国際農林水産業研究センターほか

(2021年6月1日発表)

 (国)国際農林水産業研究センターは6月1日、アンモニウムを活用して作物の窒素利用効率を高めることで、食料増産と温室効果ガス削減、窒素汚染を低減する地球にやさしい生産ができることを提案したと発表した。米国プリンストン大学公共国際問題大学院との共同研究による。

 肥料の3要素の一つである窒素は、農作物に与えても半分以下しか吸収されない。残りは環境中に放出されて温室効果ガスとなり、地下水汚染も引き起こす厄介な物質だ。

 世界の人口は2050年までに90億人に達するとの推計がある。食料増産のためにますます窒素肥料が使われ、地球への負荷が許容できないレベルに達するとみられている。

 このため国際農研は、窒素による汚染を抑制し、作物の生産を向上させるために、アンモニウムを活用した解決策として「生物的硝化抑制」を提案した。

 硝化とは土壌中の細菌がアンモニウムを酸化して、亜硝酸と硝酸に変える作用をいう。この過程で亜酸化窒素も生成される。亜酸化窒素は、二酸化炭素(CO2)の約300倍もの強力な温室効果ガスであり、オゾン層破壊物質でもある。人間活動による亜酸化窒素発生の3分の2は農業によるもので、その6割が肥料として使われなかった余剰な窒素から出ている。

 ところが、植物は自身の根から物質を分泌して硝化を抑える生物的硝化抑制の働きを持っている。これは国際農研が2003年に科学的裏付けを見つけて公表したもので、各国の農業研究に貢献してきた。

 アンモニウム自体は粘土や有機物などの土壌に吸着されるため、そのままでは地下水へ浸透する心配はない。窒素もアンモニウムとして存在する限り亜酸化窒素は発生しない。

こうしてアンモニウムを酸化させずに土壌中に保持させておくことによって、窒素の利用効率が高まり、食料増産や温室効果ガスの抑制、有害な硝酸、亜硝酸の地下水・河川への流出も防止できるというたくさんの利点が生まれる。

 さらにある種の作物との組み合わせによってもアンモニウムを効率よく活用できる。ソルガム(高キビ)やコムギ、トウモロコシ、イネなどの主食穀物で、これらに備わっている硝化抑制作用を活用することで環境に優しい食料生産システムが可能になる。

 国際農研は、世界の17機関と共に「生物的硝化抑制(BNI)国際コンソーシアム」を作り、農地からの窒素汚染を低減する国際的な食糧生産システムを進めている。