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神経細胞のDNA高次構造変化―学習・記憶で重要な役割:筑波大学

(2019年5月9日発表)

 筑波大学は59日、小脳の特定の神経細胞が学習や記憶に重要な役割を果たしていることを突き止めたと発表した。神経細胞の遺伝情報を持つDNAの立体的な構造(高次構造)が変化することも分かった。DNAの高次構造が学習や記憶で重要な役割を果たすことが明らかになったのは初めてという。

 筑波大 医学医療系の山田朋子助教らの研究グループが、米ワシントン大学と共同で明らかにした。

 研究グループが突き止めたのは、小脳皮質に存在する神経細胞の一つである顆粒(かりゅう)細胞と学習・記憶との関係。ほ乳類の小脳で学習や記憶が形成される仕組みはよく分かっていなかったが、今回初めてマウスの実験でDNAの高次構造が重要な役割を果たしていることを明らかにした。

 実験では、天敵から逃げるためマウスが進化の過程で身に着けた驚愕反射を利用。鼻先にキツネやラットのおもちゃを急に近づけられたマウスは後ずさりするが、おもちゃを近づける1秒前に青色ライトの点灯を繰り返し、ライトの点灯だけで後ずさりするよう学習させた。このマウスの行動について、光で活性化されるたんぱく質を用いて神経細胞の活性化を制御する光遺伝学などの手法を用いて解析した。

 その結果、この学習と記憶には小脳の神経細胞「顆粒細胞」が重要な役割を果たしていることが分かった。さらにこの神経細胞のDNAを詳しく調べたところ、学習の前後でDNAの高次構造に変化が起きることが確認できた。DNAは引き延ばすと1本のひも状にのびるが、生体内では様々なたんぱく質と結合するなどして立体的な高次構造を持つことが知られている。

 研究グループは、記憶するための神経細胞の振る舞いを知ることで、将来的に加齢や疾患による記憶の低下、学習障害への対処法を細胞レベルで見出だすことにつながると期待している。