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半導体型CNT量産化に道―高純度化の仕組み解明:産業技術総合研究所

(2019年2月7日発表)

 (国)産業技術総合研究所は2月7日、筒状の炭素分子「カーボンナノチューブ(CNT)」を用いた半導体デバイスの実用化に向けた高純度半導体型CNTの量産・安定供給に道をひらいたと発表した。CNTの製造過程で混入する不要な金属型CNTの分離の際に働く仕組みを解明、半導体型の高純度化が欠かせない印刷技術を用いた半導体デバイス作りの実用化の加速に役立つと期待している。

 CNTは炭素原子6個がつながった六角形のパターンを基本単位にして、それらが無数につながった筒状の炭素分子。基本単位のつながり方など構造の違いによって電気的な特性が異なる半導体型と金属型に分かれる。

 半導体デバイスへの応用には高純度の半導体型が必要なため、産総研は2010年に「ELF法」と呼ぶ分離技術を開発し99%以上の高純度化に成功した。ただ、半導体デバイスの大面積化やフレキシブル化などが可能な印刷技術を用いる製造法には、金属型CNTのさらなる高純度化が欠かせないとされていた。

 そこで産総研は、これまでその詳細が未解明だったELF法による分離の仕組み解明に取り組んだ。ELF法はCNTを溶液中に分散させて上下方向に電圧をかけ、負の電荷の帯びやすさの差を利用して電気的な力で移動させ分離する。ただ、CNTが液体中で動く際には別の仕組みも働いているとみて、より詳しい解析を試みた。

 その結果、粒子が帯びる電荷量が溶液との相互作用でも影響を受けており、金属型と半導体型の溶液内での移動が単純な負の電荷の帯びやすさの違いだけによるものではないことが分かった。さらに、その影響はCNTを分散させる溶液によっても異なることを突き止めた。この成果をもとにCNTを分散させる溶液を非イオン性界面活性剤にするなど最適化したところ、分散剤、溶媒などにかかる分離コストを従来のELF法より9割削減、分離時間も半減できたという。

 研究グループは、今回の成果について「金属型/半導体型CNT分離技術の高度化や、量産・安定供給できる分離装置の設計指針の取得につながる」として、印刷技術を用いるCNTの半導体デバイス作りへの応用が進展すると期待している。