[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

肺腺癌の悪性化のメカニズムを解明―原因たんぱく質を標的とした薬剤に抗ガン作用:筑波大学

(2019年2月5日発表)

 筑波大学と(国)産業技術総合研究所の研究グループは2月5日、肺腺癌で過剰に作られるたんぱく質「SFN」が肺腺癌の悪性化を引き起こすメカニズムを解明したと発表した。動物実験で、SFNを阻害する薬剤に抗ガン作用が認められたことから、肺腺癌治療への応用や新たな抗ガン剤候補の発見などが期待されるとしている。

 肺腺癌は4タイプある肺ガンのうちで最も発生頻度の高いガン。初期の上皮内癌の段階では治癒率が高いが、浸潤性の腺癌に進行すると死亡率が高まる。

 この進行肺腺癌を根治することは極めて難しいことから、初期癌の段階で進行を抑えたり、あるいは浸潤性腺癌の進行を遅らせたりする治療戦略が、根治の研究とともに重要視されている。

 初期段階から肺腺癌で過剰に発現するたんぱく質SFNと、それをつくる遺伝子SFNを先に発見した研究グループは、今回、SFNの作用メカニズムの解明と、SFNを標的とした抗ガン剤の探索に取り組んだ。

 その結果、SFNはガン細胞の増殖を促す腫瘍性たんぱく質群の分解を抑えてしまうため、肺腺癌の悪性化が引き起こされることを見出した。

 そこで、SFNのこの作用を阻害する化合物を、他の効能で既に臨床使用されている薬剤のライブラリーから探索したところ、制吐剤と抗血小板薬の2剤がSFN阻害薬候補として浮上、肺腺癌のモデルマウスを用いた動物実験でこれら2剤に腫瘍増大を抑える作用が確認された。

 近年、肺腺癌の治療薬として免疫チェックポイント阻害剤などの臨床応用が進んでいるが、研究グループは「免疫チェックポイント阻害剤にSFN阻害剤を併用することで相乗効果が得られる可能性も考えられる」とし、今後、免疫チェックポイント阻害剤との併剤に向けた前臨床試験や臨床試験を目指して準備を進めるとしている。