[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

グラフェン膜の欠陥可視化―大面積デバイスへの応用加速も:産業技術総合研究所ほか

(2019年1月31日発表)

 (国)産業技術総合研究所と九州大学は131日、さまざまな応用が期待されるナノ炭素材料「大面積グラフェン膜」の欠陥を高速・高精度で可視化する評価技術を開発したと発表した。電気特性や機械強度を低下させる原因となる結晶欠陥などを数分で識別できる。タッチパネルや太陽電池などの大面積デバイスへの応用に大きく貢献すると期待している。

 グラフェン膜は炭素原子6個で構成される亀の甲模様を単位とする分子構造が蜂の巣状に並んだ膜状の分子。厚みは炭素原子1個分と極めて薄く、電気特性や熱伝導度性、機械強度、化学的安定性など優れた特性を持つため、さまざまな分野で新材料として実用化研究が進んでいる。

 研究グループは今回、グラフェン膜の両端に周期的に強度が変化する電圧をかけたときにグラフェン膜から発生する熱を赤外線カメラで撮影、その発熱分布を画像化する技術を開発した。グラフェン膜に破れやしわ、結晶粒間の欠陥などがあると電気伝導特性が大きく低下するが、発熱分布をとらえることで欠陥分布を一目で把握できる。

 新技術では、グラフェン膜にかける電圧の周期と同期するように連続撮影し、一定間隔でその画像を取り込むことで、グラフェン膜表面の微弱な変化も効率よく測定できるようにした。その結果、ミリメートルサイズの大きさのグラフェン膜でも10分程度で測定できることを確認した。

 従来、グラフェン膜の評価には、原子スケールの欠陥を調べるのに使われている走査型トンネル顕微鏡(STM)などを用いていた。そのためグラフェン膜の品質評価は従来、ナノメートル(10億分の1m)からマイクロメートル(100万分の1m)程度の範囲にとどまっていたが、新技術では10mm以上の広い範囲に拡張できるという。

 今回の成果について、「グラフェンの大面積デバイスへの応用に向けて大きく貢献しうる」と期待している。