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「スロー地震」の発生原因解明に一歩―プレート境界の水の量の違いが関係:産業技術総合研究所ほか

(2019年1月30日発表)

 (国)産業技術総合研究所と広島大学、(国)海洋研究開発機構(JAMSTEC)は130日、日本列島直下に沈み込むプレート内の水の挙動が「スロー地震」発生に関係していることが分った、とする共同研究の結果を発表した。南海トラフで起きているスロー地震の発生メカニズム解明に役立つものと期待される。

 日本列島周辺は、複数のプレート(岩盤)と接しており、プレート境界での巨大地震の発生が心配され、四国の南の水深4,000m級の南海トラフでは近年スロー地震と呼ばれる地震が発生している。

 スロー地震は、普通の地震によるすべり(スリップ)よりも遥かに遅い速度で発生するスロースリップ現象のこと。「ゆっくり地震」ともいい、数日から数週間、長くは数カ月かけて起こる。九州大学火山観測研究センターなどの研究グループが九州東方の日向灘で行なった海底地層観測でスロースリップ現象を発見し、その内容が2015年に米国の科学雑誌「サイエンス」に掲載されたことで広く一般に知られるようになったが、昨年は気象庁が四国周辺から紀伊半島にかけてのプレート境界でスロースリップが原因とみられる深部低周波地震を観測したことを発表している。

 また、昨年の4月には、東京工業大学の研究グループがスロースリップによってプレート境界の水が移動することを初めて観測したとする発表を行っている。

 こうした状況のもとで産総研の大坪誠主任研究員と宮川歩夢主任研究員、広島大の片山郁夫教授、JAMSTECの岡崎啓史研究員の研究グループは、今回日本列島直下に沈み込む深さ約3070kmのフィリピン海プレートに作用する力を解析し、沈み込むプレート内部の水の流れやすさを調べた。

 その結果、沈み込むプレート内部の水の流れやすさに違いがあることを発見。水がフィリピン海プレートからマントル方向に流れやすい領域では、マントル内に多くの水が蓄積され、それによって岩石間の摩擦が減少して滑りやすくなり、スロー地震が起こる可能性があることが分かった。

 さらに、南海トラフのスロー地震の分布と今回明らかになった水の流れやすさの分布とを比較したところ、南海トラフのプレート境界に供給される水の量の違いがスロー地震発生に関係していることが分かった。