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日本の大気中のオゾン濃度の変動原因を解明―周辺の気候の変動により生じることが調査で明らかに:国立環境研究所

(2018年12月21日発表)

 (国)国立環境研究所は1221日、日本の大気に含まれているオゾンの濃度が周辺の気候変動によって変わることが調査の結果判明したと発表した。「気候パターンの変化が、中国からのオゾン前駆体排出量増加の効果を打ち消すほどの大きな影響力を持っていることが初めて示された」という。

 オゾンは、3個の酸素原子が結びついた気体で、相反する2つの“顔”を持っている。遙か高空の成層圏にある「成層圏オゾン」は、有害な紫外線を防いでくれるが、成層圏と地表の間の「対流圏オゾン」は人間や植物に悪影響を及ぼす。

 しかも、オゾンは、窒素酸化物や揮発性有機化合物などのオゾン前駆体(オゾン生成の元となる物質)に紫外線が当たると発生するため世界的に増加が心配され、前駆体の排出量増加が続く中国の風下に位置する日本国内のオゾン濃度は1990年代から高くなった。

 ところが、2000年代後半を境にして増加は止まり、逆にオゾン濃度の低下が日本の各地で起こった。しかし、中国の大気汚染悪化が進んでいた時期にその影響を受ける風下の日本で何故オゾン濃度が低くなったのかは解明されていなかった。

 今回の研究は、オゾン濃度の低下が日本で起こった原因をオゾン前駆体排出量の変動からではなく気候の変動に着目しての調査を行うことで解明しようと行った。

 調査は、中国大陸から吹いてくる越境大気の観測に適した日本海に近い高山域の測定所として知られる国設の八方尾根酸性雨測定所(長野県 白馬村)で観測されたオゾン濃度データや気象庁のデータ(気象庁55年長期再解析(JRA55)データ)などを使って解析する方法で行った。

 その結果、オゾン濃度の減少が生じていた20082013年の期間には日本の南側の太平洋上に平年よりも気圧の低い状態が生じ、東側のアリューシャン列島付近が平年より高くなっていたことが判明。それにより大陸から日本に向かう風が弱められてオゾンや前駆体を含む汚染空気の越境流入が減少、変わって太平洋側からの清浄な空気の流入が増加して日本周辺の汚染が薄まりオゾン濃度の低下が生じていたことが分かった。

 環境研は「この越境汚染の減少効果がなければ、日本のオゾン濃度はもっと高かった可能性が高い」と結論している。