黒潮が運ぶサンゴ幼生の遠距離の旅―南西諸島での生態系ネットワークを浮き彫りに:産業技術総合研究所
(2026年4月9日発表)
(国)産業技術総合研究所(産総研)の研究チームは、南西諸島でのサンゴ礁の生態系を維持する仕組みとして、近くを流れる黒潮の影響で約1,000kmも離れた遠距離までサンゴの幼生が運ばれるネットワークを明らかにし、中核となるサンゴの供給源になる領域を推定したと発表した。温暖化などによって被害が深刻化しているサンゴの保全や復元への有効な対策につながることが期待される。
サンゴ礁は生物多様性の豊かな場だと知られるが、近年、気候変動による海面水温の上昇などで、サンゴに共生する褐虫藻(かっちゅうそう)が死滅する白化現象の被害が続出している。
研究チームは南西諸島でのサンゴ礁の生態系の形成や維持のメカニズムを把握するため、これまで島と島の間でサンゴの遺伝的なつながりを調べてきた。サンゴ増殖の仕組みは種によってもさまざまで、サンゴの群落から海中に放出された卵と精子が受精後、誕生した「幼生」が浮遊した末に別の海底に着床していくものが多い。
今回の研究では、南西諸島の全域(7箇所)で採取したサンゴ(コユビミドリイシ)が、採取場所によって遺伝的にどう異なるかを調べたほか、個体の供給源を探るうえで南西諸島の北側を通る黒潮の流れを(国)海洋研究開発機構が蓄積している海流モデル(JCOPE-T)を活用して検証した。【図1】

その結果、南端の先島諸島(西表島、石垣島、宮古島など)から沖縄諸島、奄美群島、トカラ列島、そして北端の大隅諸島(種子島、屋久島など)までの約1,000kmにわたり、遺伝的には大きく相違していないことが分かった。幼生分散のシミュレーションからも多くの幼生が遠距離まで供給されており、さらに奄美群島からは黒潮に逆行する時計回りの小規模な流れの影響で沖縄諸島へ幼生が供給されていた。【図2】

これまでハワイやカリブ海では、島と島の距離が遠くなるほど遺伝的な違いが大きくなると報告があったが、今回の結果は逆の事例。明らかに黒潮の影響であり、南西諸島でサンゴの幼生分散を通じ地点間が連結するネットワークも見えてきた。研究チームは「小さな島は、南西諸島全体のサンゴのつながりを維持する重要な役割を担っており、幼生交流の“ハブ”となる」という。今後、サンゴ礁保護のための国立公園の設定をはじめ、各地域でのサンゴ保全・再生の取り組みなど、広範な海洋生態系研究および生物多様性保全への応用が期待される。



