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中国の二酸化炭素放出量がコロナ禍以前のレベルに戻る―パリ協定による放出量の客観的検証手段としての有効性を確認:国立環境研究所ほか

(2021年11月9日発表)

 (国)国立環境研究所と(国)海洋研究開発機構は11月9日、一時減少していた中国の化石燃料による二酸化炭素(CO2)の放出量が、コロナ禍以前のレベルに戻ったことを大気観測で捉えることに成功したと発表した。これは中国の経済活動の回復と一致しており、この観測手法は、国別や地域別の温室効果ガス排出量の客観的検証に使えることを立証したとしている。

 温室効果ガスをパリ協定に基づいて実効的に削減するには、国や地域レベルでの削減状況を科学的に検証する必要がある。最近は自然起源だけでなく人為起源の放出量も大気観測で求められるようになった。

 環境研は、沖縄県八重山諸島にある日本最南端の有人島、波照間島(はてるまじま)に温室効果ガスの観測モニタリングステーションを建設し、1992年から大気観測を続けている。この島は冬の間、アジアモンスーンによって中国から高濃度の汚染空気の影響を度々受けてきた。

 CO2とCH4(メタン)の濃度は非常に似通った変動をするため2つのガスの変動比を解析した。観測によるCO2とCH4の変動比の変化は、上流の中国の放出量の変化を反映していることがこれまでの研究で明らかにされている。

 中国は新型コロナの感染蔓延で2020年冬にはほぼ全土を都市封鎖し、経済活動が大幅に低下した。同年2月の観測からCO2とCH4の変動比が顕著に減少したことを発見し、研究グループは「中国からのCO2排出量が約30%減少したことに相当する」と公表した。その後コロナウイルスの抑え込みに成功し、2020年10月〜12月頃に経済活動はコロナ以前のレベルに戻った。

 今回の研究は、大気観測によって中国のCO2排出量がコロナ後の経済活動に伴って元の状態に戻ったかどうかを確認するのが目的。大気中のCO2とCH4の分布と時間変化などを大型計算機によるシミュレーションで再現し、計算機の模擬結果と実際の観測結果とを比較した。2020年2月〜3月は影響が顕著だが、2021年の同時期は太平洋側の大気の影響が邪魔して中国の影響ははっきりと掴めなかった。

 そこでコロナ禍前後の様子を見るために、大陸からの影響を強く受ける11月〜4月のCO2・CH4比について、過去9年間の各月平均値の偏差と直近3年間の月平均値を比較した。2020年2月は過去9年間の変動範囲を超えて低下。2021年は9年間の平均値の変動範囲に概ね収まっていた。

 波照間島の観測によるCO2とCH4の大気成分濃度の分布や時間変化を大型計算機で計算し、濃度変化をシミュレーションで再現した。2021年のCO2は9年間の平均より0〜20%程度の増加となり、コロナ感染前のレベルに戻っていた。中国経済がコロナ禍以前のレベルに戻っていることと整合していた。

 この手法は、観測地点に影響を与える風上からの放出量比をほぼリアルタイムで推定する手法で、パリ協定で約束された各国の放出量削減量を検証するための有効な方法の一つであることが確認された。