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高圧の氷に新たな秩序を発見―氷の未解決問題の1つを解決:東京大学大学院/総合科学研究機構/日本原子力研究開発機構ほか

(2016年7月4日発表)

 東京大学大学院理学系研究科は、(国)日本原子力研究開発機構 J-PARCセンターと(一財)総合科学研究機構 中性子科学センターと共同で、低温、高圧下で現れる氷の15番目の結晶である「氷XV相」の直接観察に成功したと、7月4日に発表した。氷XV相はこれまで知られている秩序相にも無秩序相にもあてはまらずナゾとされていたが、複数の秩序構造が混じり合った第3の状態の「部分秩序相」であることを初めて確かめ、ナゾを解決した。部分秩序相は他のタイプの氷でも見つかる可能性があり、不思議の多い氷の性質の新しい理解につながるものと見ている。

 暑い夏には氷で冷やした飲み物がのどを潤すが、冷蔵庫で作られる通常の氷は最も基本的な結晶で「氷I相」と呼ばれる。水に圧力を加え冷却すると結晶構造(相)は様々に変化し、これまで17種類が見つかった。発見順にローマ数字で表される。

 氷の結晶は、水素の配置に規則性のあるのが秩序相、規則性のないのが無秩序相と2種類に区分されていた。ところが秩序相の「氷XV相」は、理論計算などから強誘電体になると予想されていたものの、実は予想と違って反強誘電体の性質を示していた。

 この矛盾は氷研究の未解決問題の1つとされる。今回の直接観察によって第3の状態の部分秩序相であることがわかり、矛盾が解消できた。

 氷の直接観察には世界の研究者が高い関心を寄せているものの、技術的に極めて難しい障壁があり成果が出にくかった。観察は低温、高圧下の氷に中性子を当て、氷を構成する水素原子の配置を調べるが、大型の装置を丸ごと極低温に冷やし、超高圧をかけることはできない。そこでチームは、2013年に低温下でも圧力を自由に調整できる装置「Mito system」を開発し、これを世界最高性能の超高圧中性子回折装置に組み込んで氷XV相の直接観察に成功した。

 また氷VI相から氷XV相を安定的に作るのも困難を極めた。実験装置で複雑な加圧と冷却を繰り返すなど、複数の手順を注意深く調整しながら作成した。その結果、氷XV相は異なる水素配置が共存する「部分秩序相」であることを見つけた。

 部分秩序状態は、他の氷でも発見される可能性があると、研究グループは予想している。