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積層不整のない氷Icの合成に世界で初めて成功―水素ハイドレートから水素を抜き取る方法で合成:東京大学/総合科学研究機構/日本原子力研究開発機構 J-PARCセンターほか

(2020年2月3日発表)

 東京大学と(一財)総合科学研究機構 中性子科学センター、日本原子力研究開発機構 J-PARCセンター、山梨大学の共同研究グループは2月3日、結晶構造の水分子層に乱れがない『積層不整のない氷』を合成することに世界で初めて成功したと発表した。これまで謎であった「積層不整のない氷」の基礎物性の理解や、積層不整が物性に与える影響の理解促進が期待されるという。

 氷には、温度や圧力に応じて異なる結晶構造を持つ数多くの多形が存在する。通常の氷は六方晶系の対称性を持ち、氷Iと呼ばれている。雪の結晶の六花の形はこの対称性に由来する。

 これに対し、ある条件の下では水分子の層が立方晶系の対称性を持つことが古くから知られており、この立方晶系の氷を氷Iと呼んでいる。氷Iは-90℃程度以下の温度で水蒸気から凝縮した場合や、ガスハイドレートが低温で分解した場合など、様々な条件で生じ、比較的身近に存在している。

 ところが、過去に合成された氷Iはすべて例外なく積層不整した構造を持っており、完全な氷Iの存在は確認されておらず、積層不整のない氷Iを作ることが求められていた。

 積層不整とは、結晶構造を成す単位構造層の積み重なり方に見られる不整のことを指す。氷の結晶では水分子の層が単位構造層を成す。積層不整は単純な結晶構造のダイヤモンドや金属、あるいは複雑な層状物質の雲母など様々な物質に一般的に見られる。

 研究グループは今回、積層不整がない氷Iを、「Mito system」と呼ばれる温度・圧力可変の高圧セルを使って合成することに成功した。

 氷Iと同じ水分子フレームワークを持つ水素ハイドレートから水素分子のみを抜き取るという方法で合成した。具体的には、水素マグネシウムを水素源とし、水とともに高圧セルに封入、高圧下で水素ハイドレートを合成、その後冷却、減圧し、低温下で脱圧することで、水分子のフレームワークを保ったまま水素分子のみを取り去って積層不整のない氷Iを得た。

 今回の研究により、積層不整のない氷Iを合成する方法が分かったので、今後氷Iの様々な性質の解明が期待されるとしている。