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女王アリの精子貯蔵器官で働く遺伝子を特定―体内で10年以上精子を保存できる謎解明へ:筑波大学

(2017年7月20日発表)

 筑波大学、甲南大学、(国)基礎生物学研究所などの共同研究グループは720日、女王アリの精子貯蔵器官で働く遺伝子を特定したと発表した。女王アリが10年以上にわたり体内で精子を常温保存できる謎の解明に迫る成果という。

 女王アリは羽化後の限られた時期にだけ交尾し、その時に受け取った精子を精子貯蔵器官である「受精嚢」に寿命が続く限り貯蔵、産卵時にそこから必要な数の精子を取り出して受精させている。

 動物の精子は一般に交尾後数時間から数日で授精能力が劣化するが、女王アリの寿命は多くの種で10年以上と長く、なかには29年という種も知られており、女王アリは大量の精子を受精嚢内で長寿化させていることになる。しかし、そのメカニズムはこれまで謎だった。

  共同研究グループは今回、大量の女王アリの収集が可能なキイロシリアゲアリというアリの女王を研究対象とし、受精嚢でどのような遺伝子が活発に働いているかをRNA-seq法という手法を用いて調べ、働きの不明なものを含めて多くの遺伝子を見出した。

 そのほとんどは受精嚢だけでなく、卵巣や中腸などの活動的な器官でも発現していたが、受精嚢のみで強く発現している遺伝子がその中から12個見つかった。これらの遺伝子の機能は他の生物の生殖器官では全く知られていないため、これらが女王アリの精子貯蔵に特殊化した機能を持つ遺伝子であることが期待できるという。

 研究グループは今後、これら12個の遺伝子が精子の生存や生理などにどのように働いているのかを明らかにし、長期間の精子貯蔵メカニズムの解明を目指すという。

 畜産や不妊治療の現場では現在、液体窒素で精子を凍結保存しているが、女王アリの特殊な精子貯蔵メカニズムが解明されれば新たな精子貯蔵法の開発も期待できるとしている。