[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

情動に関わる神経生成の仕組み解明―2種類の遺伝子が不可欠:筑波大学ほか

(2018年9月21日発表)

 筑波大学は9月21日、動物の脳で喜びや快楽、不安などの情動行動をコントロールしているドーパミン神経が作られる仕組みを日米の4大学と共同で明らかにしたと発表した。ヒトに最も近い無脊椎動物「ホヤ」を使い、ドーパミン神経が作られる際に欠かせない二種類の遺伝子を突き止めた。ヒトを含む動物の神経細胞がどのような原理に基づいて作られているかを探る手掛かりになる。

 ヒトなど脊椎動物の脳に複数種類あるドーパミン神経は、動物の活動にとって極めて重要な神経の一つだが、どのようにして作られるかは未解明な点が多かった。そこで筑波大の堀江健生助教、笹倉靖徳教授の研究グループが、米プリンストン大学、兵庫県立大学、甲南大学、沖縄科学技術大学院大学との共同で研究を進めた。

 まず、ホヤの体を構成するすべての細胞一つひとつの中で働いている遺伝子を網羅的に調べる実験手法を用いて、ドーパミン神経がどのようにして作られるかを徹底的に調べた。その結果、ドーパミン神経が作られる際に必ず働いている遺伝子「Ptf1a」を突き止めた。この遺伝子が働かないとドーパミン神経が作れないことも確認、ドーパミン神経の形成に不可欠であることを明らかにした。

 さらに、このPtf1aをホヤの幼生(成体になる前の状態)の脳の中で過剰に働かせる実験をした。その結果、多くの細胞がドーパミン神経になったが、一部に変換されない細胞が残ることが分かった。そこで変換した細胞と変換しなかった細胞の中で働いていた遺伝子を詳しく比較したところ、ドーパミン神経になった細胞でだけ「Meis」という遺伝子が強く働いていることが分かった。

 このため、これら二つの遺伝子をホヤの幼生の脳の中で同時に働かせる実験を試みた。その結果、脳のすべての細胞がドーパミン神経になることが確認され、ホヤのドーパミン神経は二つの遺伝子が共同で働くことで作られていることが分かった。

 研究グループは「ホヤのドーパミン神経はわれわれ脊椎動物の視床下部と似ている」として、ヒトを含む脊椎動物の視床下部のドーパミン神経も同じメカニズムを使って作られている可能性が高いとみている。