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機械学習の計算を劇的に省力化できるAIデバイスを開発―イオンゲルとグラフェンを利用したリザバー素子で実現:物質・材料研究機構ほか

(2025年10月14日発表)

 (国)物質・材料研究機構と東京理科大学、神戸大学の共同研究グループは10月14日、機械学習の計算を大幅に省力化できるAIデバイスを開発したと発表した。イオンの振る舞いを利用して情報処理を行うもので、ソフトウエアで実行する深層学習並みの高い計算性能と、桁違いに低い計算負荷を実現した。スマートフォンやカメラなどの端末に高性能AI機能を実装できる可能性が示されたという。

 人工知能(AI)の一種である機械学習の急速な普及に伴い、機械学習で消費される電力の増加やクラウドとの通信量の増大が社会問題として浮上、電力消費が少なく高精度な計算ができ、かつ携帯端末などに搭載できるような小型で集積性に優れたAIデバイスの開発ニーズが高まっている。

 その一つとして、「物理リザバー」と名付けられた材料・デバイスが示す物理現象を計算に利用する脳型情報処理「物理リザバーコンピューティング」が近年注目され、研究されている。

 リザバーコンピューティングは神経回路網の働きを模倣する計算手法の一種で、多数の人工ニューロンからなるランダムネットワークであるリザバーを利用して情報処理を行う。入力信号をリザバーに与えると、ネットワーク内部で複雑な動的応答が生じる。リザバー状態と呼ばれるこの応答をもとに、そこから出力を生成することで入力信号のさまざまな特徴を捉えた情報処理が可能となる。

 近年、多種多様な材料・デバイスを対象に研究開発が進んでいるが、これまでのものはソフトウエア型機械学習に比べて計算性能が低く、またデバイスの応答速度や物理現象の特性によって処理できる時系列情報の時間スケールが制約されるという問題があった。

 研究グループは今回、イオンを利用する物理リザバー素子を開発、深層学習並みの高い計算性能と桁違いに低い計算負荷を実現した。炭素原子1個分の厚さの二次元材料であるグラフェンをチャネル材料とし、イオンゲルを電解質とした電気二重層トランジスタを物理リザバー素子とし、典型的なベンチマーク試験で予測タスクを実施した。

 その結果、正解波形と予測波形が非常に良く一致、99%以上の精度で予測ができた。これはソフトウエアを用いた高性能な深層学習と同等で、加えて、計算負荷は深層学習に比べて約100分の1に低減した。

 端末機器に直接搭載する、いわゆるエッジAIの情報処理性能への貢献が期待されるとしている。

 物理リザバーは、入力される時系列信号を、材料内部で起こる物理現象を利用して非線形変換し出力する働きをする。