「次世代製鉄法」開発に向け新成果―水素還元を三次元で可視化:高エネルギー加速器研究機構ほか
(2025年9月16日発表)
次世代製鉄法の一つの候補として鉄鉱石を水素で直接還元する方式がCO₂発生低減化策として注目されているが、高エネルギー加速器研究機構と日本製鉄(株)の共同研究グループは9月16日、水素による鉄鉱石内部の還元反応を三次元で可視化することに成功したと発表した。X線顕微鏡を使って実現したもので、水素還元で生じる鉄鉱石内部の数十nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)オーダーの極めてミクロな変化を三次元で可視化し、還元温度によって異なる反応が生じていることを見つけた。
現在の鉄鋼製造プロセスは、酸化鉄が主成分の鉄鉱石を高炉(溶鉱炉)の中でコークス(石炭)から発生する高温の一酸化炭素(CO)と反応させ酸素を奪って(還元して)鉄を作っている。この高炉法は、高効率・省エネルギーで大量の鉄を製造できることから世界中で使われている。
しかし、温暖化ガスである二酸化炭素(CO₂)が多量に排出される問題があり、各国で省CO₂な代替プロセスの研究開発が行われている。
また、鉄鉱石を還元するのに使うCOガスは、分子のサイズが大きいことから鉄鉱石の奥深くにまで浸透させるのが難しいという弱点も持っている。
こうしたことから脚光を浴びているのが鉄鉱石の還元を今の高炉法のようなCOガスではなく、水素ガスに変える高炉水素還元。水素分子は、COガスより遥かに小さく鉄鉱石の奥まで容易に浸透し、最大の課題であるCO₂ガス放出もなくせる。
日本では、2020年に政府が「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするとする目標を掲げており、「高炉水素還元」の技術開発に取り組んでいる日本製鉄は昨年12月「試験炉で世界初となるCO₂削減40%超を実現した」と発表している。
水素還元に伴う鉄鉱石内部の変化は、数十nmオーダーと非常にミクロであることからその詳細を高精度に観察できる手法は限られているが、研究グループは近年応用分野が広がっている「放射光X線顕微鏡」を用い、粒径数十nm内の鉄鉱石の鉄が水素還元に伴いどのように変化するかを50nmの分解能で三次元観察することに成功、還元温度により反応モードが大きく変わることを見つけた。
研究グループは「鉄鉱石の水素還元反応に関する新知見を得た。CO₂排出の少ない新しい製鉄法開発の足掛かりを得ることができた」と総括している。