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有機液肥によるトマトの水耕栽培実用化へ―化学液肥に劣らぬ施肥効果を確認:産業技術総合研究所ほか

(2023年9月29日発表)

 (国)産業技術総合研究所と(株)アイエイアイ(IAI)、静岡県工業技術研究所、沼津工業技術支援センター、静岡大学の共同研究グループは9月29日、微生物による分解活性を利用して食品加工廃水から作った有機液肥が、トマトの水耕栽培で実用可能なことを実証したと発表した。市販の化学液肥と比べて同等、あるいは同等以上の施肥効果が認められたという。

 IAIは、たんぱく質を多く含む魚の煮汁などの水産加工廃水から、微生物を使って有機液肥を作り出す技術の開発に取り組み、窒素系の有機液肥の製造が可能な装置を開発した。しかし、得られた液肥の性能や装置内の微生物の実態などが分からなかったため、産総研、静岡大などと共同でその解明や施肥効果の検証などに取り組んでいた。

 研究ではまず、装置内の菌叢(きんそう)を解明し、硝酸態窒素の産生に重要な微生物を特定した。これにより、微生物の性質に合わせて装置の運転条件を最適化することに成功したが、製造した液肥の施肥効果の評価には至っていなかった。

 そこで今回、市販の化学液肥と比較することで、微生物が作った有機液肥がトマトの水耕栽培に実用可能か、どのような施肥効果があるかなどを検証した。

 実験では、有機液肥と化学液肥を使い、27株のトマトの水耕栽培を96日間実施した。その結果、有機液肥を使用した場合、化学液肥と比べて植物体が10%程度大きくなった。また、トマト果実も化学液肥を使用した場合と同等量収穫できた。

 これらの効果をさらに調べるため、液肥によってトマトの根に定着する微生物に違いが生ずるのかを菌叢解析したところ、有機液肥による栽培では比較的高い割合で3種の菌が付着しており、これらの働きによってトマトが大きく生育した可能性が示唆された。

 また、有機液肥で栽培したトマトの根には、化学液肥のそれと比較して多量のバイオフィルム(微生物が集まってできる構造体)が形成されていることが分かり、これが結果的に病原性を有する他の微生物の侵入を防いでいることが示唆された。

 これらの成果をもとに、IAIでは液肥によるトマト水耕栽培の事業化を進めているという。