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日本への外来植物の侵入種、150年間の数と経路を解明―侵略外来種を削減する国際取り決めに向けて第一歩:農業・食品産業技術総合研究機構ほか  

(2023年11月8日発表)

 (国) 農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境研究部門と(国)森林総合研究所は11月8日、日本に毎年どのくらいの外来植物が新規に侵入していたかの実態を、開国以来約150年間にわたって数値化したと発表した。外来植物の侵入は生物多様性や農林水産業に大きな影響を与える心配がある。侵入削減の国際的な動きに活用する。

 人や物の国際的な移動が拡大するに伴い、世界各地で外来種の国内への侵入が進んでいる。人の健康などに大きな被害を与える心配があり、外来種の侵入防止について国際的な対策が求められている。

 生物多様性条約第15回締約国会議で定められた「昆明・モントリオール生物多様性枠組」では、2030年までに「侵略的外来種の導入率と定着率を50%以上削減する」との数値目標が掲げられた。

 欧米や中国では、種数の多い植物についてその推移を研究し定量的な把握がされているが、日本ではこれまでデータがなく指標の基礎情報が不足していた。

 そこで農研機構は森林総合研究所と共同で、江戸時代末期の1845年から2000年までの新規侵入数を探り、侵入傾向を定量的に把握することになった。

 外来植物図鑑や全国の博物館の生物標本情報を基に、1300種以上の国内初確認年と侵入経路をまとめたデータセットを作成。毎年何種類の外来植物が新たに侵入してきたかを約150年にわたって調査した。累積侵入数、年間新規侵入数、全体の種、産業利用に意図的経路で持ち込まれた種、輸入品に付着して非意図的経路で侵入した種、導入経路が不明な種に細かく分けて調べた。

 1900年から2000年は、国際貿易の発展や戦後の飛躍的な経済成長によって、日本の外来植物全体の累積侵入数は64種から1,353種に劇的に増加した。年間の新規侵入数は1900年までは5種だったが1950年代後半には16種に達した。これはイギリス(最大12種)、中国(最大9種)と比べ相対的に大きかった。

 1961年以降は年間新規侵入数がわずかに減少した。輸入相手国がある程度固定化したことと、外来種が定着しやすい国内の環境が減ったこと、国際的に外来種対策が進んだことが挙げられる。しかし1991年から2000年までの10年間の平均は13種と高止まりしている。

 こうして外来植物の新規侵入の動向が初めて明らかになった。産業利用で意図的に持ち込まれた侵入数は、輸入品に付着して侵入した数よりも多かった。

 このデータは2030年までの国際合意である数値目標を達成するにあたり、数年以内に何種を減らすべきか、具体的削減目標を設定する際の指標として活用できる。

 今後、経済成長や気候変動などと外来種の侵入との関係についても解明が進むと期待されている。