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24時間周期の体内時計―安定性のナゾ解明へ一歩:分子科学研究所/量子科学技術研究開発機構/総合科学研究機構/日本原子力研究開発機構/J-PARCセンター

(2022年4月13日発表)

 自然科学研究機構分子科学研究所、日本原子力研究開発機構などの研究グループは4月13日、生物の体内時計が温度によらず24時間周期のリズムを安定して刻む仕組みの一端を解明したと発表した。時計役のたんぱく質が原子や分子の運動特性を活かして温度変化を察知、生化学反応を制御して精密な時計を実現していることを藍藻(らんそう、シアノバクテリア)による実験で突き止めた。他の生物種についても同様な手法で体内時計の秘密に迫れると期待している。

 体内時計は地球の自転による24時間周期の環境変化に適応するために生命が進化させてきた仕組みで、バクテリアから植物、昆虫、ほ乳類に至るまで持っている。体内時計には周囲の温度変化に影響されない「温度補償性」と呼ばれる性質があるが、分子科学研究所、日本原子力研究開発機構と量子科学技術研究開発機構、総合科学研究機構の研究グループは、試験管内で研究可能な藍藻を用いてその解明に取り組んだ。

 藍藻の体内時計は3種類のたんぱく質と生物のエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)を試験管内で混ぜ合わせることで再現でき、25~45℃の間でほぼ一定のリズムを刻むことが知られている。一般的に生化学反応は温度が10℃上昇すると反応速度が2~3倍速くなるが、なぜ試験管内で再現した藍藻の体内時計の進行は速くならないのか。研究グループはその仕組みを解明する研究に取り組んだ。

 まず研究グループは、3種類のたんぱく質の一つ「KaiC」が温度変化を察知し、時計の進行を制御している可能性があると推測。KaiCたんぱく質の変異体を作り、自然界の野生型KaiCとどう違うのかなどを詳しく調べた。その結果、変異体には温度上昇に伴ってリズムが加速するものと、減速するものが含まれていることを突き止めた。

 さらに、中性子散乱技術などを用いて詳しく調べたところ、KaiCたんぱく質の分子全体にわたる運動が温度変化による加速・減速を防いでいた。その結果、体内時計の進行を制御する反応が一定に保たれる自律制御にKaiCたんぱく質の分子全体にわたる運動が深く関わっていることが示唆されたという。

 今後、観察対象を他の生物種の時計たんぱく質に広げることで、体内時計の自律的な制御機構の秘密により迫ることができると、研究グループは期待している。