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プラスチックの品質診断―二つの光で結晶構造の劣化検出:産業技術総合研究所

(2023年2月28日発表)

 (国)産業技術総合研究所は2月28日、プラスチックの劣化状態を光で非破壊分析する技術を開発したと発表した。X線と近赤外光という二種類の光でプラスチックの厚みと高分子の結晶構造の変化を検出、劣化の進み具合を診断する。長期にわたる使用で劣化したプラスチック部品の品質評価や、劣化しにくいプラスチックづくりに役立つと期待している。

 新技術では、測定したいプラスチックの同じ部分にX線と近赤外光を照射、試料を透過する際にどのように散乱するのか、どの波長の近赤外光が吸収されるのかを同時に測定する。Ⅹ線の散乱からはプラスチックの結晶構造の大きさが、近赤外光の吸収からは結晶を構成する高分子の鎖の長さが分かる。

 これら二つの計測データを組み合わせることで、高分子の鎖の構造変化が集積することによって結晶構造の変化につながっていく様子が調べられる。このため、最終的にプラスチック製品の強度や耐久性に影響を及ぼす仕組みが詳しく解明できる仕組みだ。

 新技術をプラスチック製品の主要成分の一つであるポリプロピレンの構造解析に用いたところ、らせん状に巻かれた高分子鎖が規則的に集まった結晶構造が変化する様子を検出できた。X線散乱のデータからは、ポリプロピレン結晶の厚みが劣化によって増していること、また近赤外光の吸収データからは結晶の高分子鎖が作る「らせん」の数が増えていることが明らかになった。

 これらの結果から、産総研は「ポリプロピレンは劣化によって結晶構造内部の高分子鎖がより多くのらせんを形成して結晶の厚みが増え、柔軟で機械的に強い非晶構造が減ってしまう」とみている。

 産総研は今後、新技術をより長寿命のプラスチック開発に役立てるとともに、広く普及させるために企業と積極的に連携していく。