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汚染土壌の浄化速度2倍に―二価鉄で分解細菌活性化:産業技術総合研究所

(2022年2月28日発表)

 (国)産業技術総合研究所は2月28日、発がん性など人への健康被害の恐れがある化学物質「クロロエチレン」で汚染された地下水を微生物の働きで無害化できる期間を大幅に短縮する手法を見出したと発表した。地下水に二価鉄を添加することで微生物の働きを活性化し、無害化までの時間をおよそ半分に短縮できることを突き止めた。今後さらに浄化促進のメカニズム解明を進め、より効果的な技術の開発につなげる。

 ポリ塩化ビニルは衣類や水道管、建築資材などに広く使われている高分子材料だが、その原料となるクロロエチレン類は発がん性など生体への影響が懸念されている。その一方で、クロロエチレンで汚染された地下水や土壌が微生物によって無害化されることが知られていた。そこで産総研はこの点に注目、無害化までの期間を短縮する研究に取り組んだ。

 まず、クロロエチレン類によって地下水が汚染された地域を調査。鉄の原子から電子が二個はずれて正の電荷を持つ鉄イオン(二価鉄)の濃度が高く、メタンを作る細菌「メタン生成菌」が多く存在する地下水では、クロロエチレン類を無害化する脱塩素化が進んでいることを突き止めた。

 産総研は10年以上にわたって地下水や土壌中のクロロエチレン類を脱塩素化する細菌を培養してきたが、今回は特に汚染地下水中に生息する「Dehalococcoides属細菌」に注目、その細菌と共存微生物を用いて二価鉄を添加した汚染地下水の浄化を試みた。

 その結果、二価鉄の添加によって効率よくクロロエチレン類を無害なエチレンやエタンにまで完全に脱塩化できることが分かった。二価鉄の添加がない場合に比べると、脱塩素化の期間は12週から7週に約40%も短縮できた。一方、メタン生成菌の働きを阻害する薬剤を添加すると、12週間かけても完全な無害化は出来なかった。

 産総研は「クロロエチレン類の脱塩素化を促進するためには、Dehalococcoides属細菌に加えて、二価鉄とメタン生成菌の存在が必要になることを室内実験で実証できた」と話している。