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針葉樹林にわずかな広葉樹を残すと鳥類の保全に有効―森林経営の生物保全と経済性とのトレードオフ解決に光明:森林総合研究所ほか

(2023年2月13日発表)

 (国)森林総合研究所と(地独)北海道立総合研究機構森林研究本部林業試験場、アメリカ地質調査所の研究グループは2月13日、針葉樹人工林内に広葉樹を少しでも残すことが鳥類等の生物保全に有効なことを明らかにしたと発表した。木材生産と生物保全を両立させる持続可能な林業のためには、森林認証制度や施業ガイドラインに「広葉樹保持」を組み込むことが大切だとしている。

 森林資源を生産しながら生物多様性をどう保全するか。農林地で生産(耕作)と保全(育林)をする「土地の共有」方式と、農林地をまとめて耕作・育林し、生物保全の保護区は別の場所で確保する「土地の節約」方式の、どちらが優れているかなどが論争になっている。

 広葉樹は針葉樹と比べて木材の経済価値が低いため、広葉樹が混じる針葉樹林からの木材価格は減る。一方で広葉樹林は木の実が豊かで鳥類が生活しやすく、生物多様性に大きく貢献する。

 経済性を求めて針葉樹の育成空間を増やすことと、生物多様性のために広葉樹を保持することにはトレードオフの関係があり、その解決が課題になっていた。

 日本では人工の針葉樹林にほどよく広葉樹が混じると、多様な生物が生息することが知られている。

 針葉樹の多い北海道有林では、トドマツの人工林を伐採する際に、伐採数とは異なる本数で広葉樹を保持するという大規模な実験が進められている。

 研究グループは、生育する樹木を全て伐採し収穫にあてる「皆伐(かいばつ)区」、1ha(ヘクタール)あたり10本の広葉樹を残す「少量保持区」、50本残す「中量保持区」、100本残す「大量保持区」の4区画を設定し、伐採するまでの7年間の長期にわたって鳥類の生息状況を調査した。

 その結果、トドマツ人工林の北海道の実験地では、1haあたり20本から30本の広葉樹を保持することが、皆伐した場合に比べて鳥類の数を統計的に意味のある状態で維持できるとの結果が出た。

 また伐採しながら生物を守る保持林は、周囲の森林に縄張りを構えている鳥類が飛来し、利用していたことも分かった。このため広葉樹を隣り合った森林と連携させることによって、持続可能な林業を保持できると考えられる。

 国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)では17項目のうち15番目の目標に「持続可能な森林経営」が掲げられている。

 木材を生産しながら生物多様性を保全する持続可能な森林経営には、伐採や植栽に関する「ガイドライン」や「森林認証制度」に、「広葉樹の保持」を組み込むことが効果的だと指摘している。