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世界自然遺産・奄美群島の植物相の豊かさと特異性を調査―常緑広葉樹やシダ植物が多く、草花は絶滅危惧種と固有種に富む:国立環境研究所ほか

(2023年2月3日発表)

 (国)国立環境研究所、鹿児島大学などの研究グループは2月3日、ユネスコ世界自然遺産に登録された奄美群島の植物群落の多様性を初めて定量的に調査し、その特徴を明らかにしたと発表した。常緑広葉樹やシダ植物が豊富で多様化しており、気候変動や草食動物の過剰繁殖などの影響を受けやすい特徴がある。北海道大学、琉球大学、(一社)九州オープンユニバーシティが研究グループに参加した。

 奄美群島は九州本土の南部に点在する奄美大島、徳之島、与論島など8つの有人島からなる。155万年前に大陸から分離したと考えられる。孤立した地史を反映して、この地域だけにしかない63種の固有種を含む約1,800種の維管束植物が記録されている。

 こうした生物多様性の豊かさと珍しい地史から、奄美大島、徳之島は2021年に沖縄島北部、西表島と共にユネスコ世界自然遺産として登録された。

 自然遺産の管理には、独自性と種の多様性の長期的な維持が欠かせない。この地域のモニタリングはこれまで主に樹木類の木本(もくほん)層が主体だった。

 樹木と草花では多様性のパターンや要因が異なる。草花の草本(そうほん)層は環境の撹乱や気候条件の影響を強く受けやすい。奄美群島の絶滅危惧種や固有種の多くは草花であることから、これらを含めた他地域との比較を実施することにした。

 観察は、生物地理学的に関連のある地域と比較するため、奄美群島に7区画、南九州に3区画、沖縄東北部に1区画の調査区(1区画500m2)を設けた。環境省が観察している5地点のデータと合わせ、「地域間」「多様度」「希少度」の3条件について比較した。

 また地域で優占するグループを明らかにするために「科」ごと「生活型」ごとに種数を数え、地域間でグループごとの種数の差を計算した。

 この結果、奄美群島の常緑広葉樹林は、沖縄島北部や南九州と比べ全ての面で種多様性が高かった。特に南九州と比べると、アカネ科、モチノキ科が高かった。

 両科は熱帯、亜熱帯で多様性の高さを示す。これは新生代に広がっていた熱帯気候が好条件となり、長い時間をかけて豊かな多様性を育んだとの「保全仮説」にも適合している。

 また奄美群島の常緑広葉樹林は、周辺と比べて常緑広葉樹とシダ植物の多様性が高い特徴があり、絶滅危惧種では草花で最も種数が多く、次いで常緑広葉樹、シダ植物の順だった。

 奄美群島では、ノヤギの森林への侵入や外来種の増加、観光客の増加と共に気候変動が大きな懸念材料になっている。こうした人為的な影響は樹木より草花に大きな影響を与えることが知られており、今後もモニタリングしていく必要があるとしている。