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大津波から8年、海岸生物はまだ回復の途上―干潟の寄生虫の長期モニタリングで明らかに:国立環境研究所/高知大学ほか

(2019年11月22日発表)

 (国)国立環境研究所、高知大学などの研究グループは1122日、東日本大地震が干潟の巻貝に寄生(感染)する吸虫(きゅうちゅう)に及ぼした影響を仙台湾で調べ、巨大津波が吸虫類の感染率と種(しゅ)を著しく減少させ、その状況が2019年まで続いていることを世界で初めて明らかにしたと発表した。大津波から8年経つが海岸生物は津波以前にまでまだ回復していないことが分かったという。

 研究を行ったのは、国立環境研究所 地域環境研究センターの金谷弦主任研究員、伊藤萌特別研究員、高知大学 農林海洋科学部の三浦収准教授、日本大学生物資源科学部の中井静子助教、東北大学東北アジア研究センターの千葉聡教授のグループ。

 東日本大地震が起きたのは、2011311日。海岸地域では、震災により生物の数や種類が大きく減少した。研究は、北海道から九州までの干潟に広く生息するホソウミニナという巻貝と、それを宿主とする二生吸虫(にせいきゅうちゅう)と呼ばれる寄生虫に注目して行った。

 二生吸虫は、風土病として知られる日本住血吸虫症(にほんじゅうけつきゅうちゅうしょう)などを起こす小さな寄生虫だが、海辺などにはそれらと別の人畜無害な数多くの種類の二生吸虫が生息している。その変動を長期にわたるモニタリングから明らかにすることで津波後の海岸生態系の回復過程を推定しようと今回の研究を行った。

 調査を実施したのは、宮城県の仙台湾と周辺海域の5つの干潟で、各干潟から約150個のホソウミニナを採取して顕微鏡下で解剖し、寄生する二生吸虫の種類などを詳しく解析、津波の影響を調べた。

 その結果、5つの干潟では、津波の前ホソウミニナに6種の二生吸虫が寄生していたのが、津波によりそれぞれの干潟共その感染率、種数が大きく減少、津波の影響が大きかった干潟で特にそれが顕著だったが、20162017年には感染率が津波前のほぼ8割程度にまで回復した干潟も出てきていることが判明した。

 しかし、ホソウミニナへの二生吸虫の感染率や種数は、多くの干潟で不安定に変化していて津波の影響が2019年まで続いていることが分かった。

 こうした結果が得られたことから研究グループは「大津波が生じてから8年もの時間が流れ、海岸生態系は着実に回復へと向かっているが、津波以前のような豊かな生態系に戻るにはさらなる時間が必要なようだ」と結論している。