植物の交雑で「動くDNA配列」活性化―交雑が遺伝的多様性を大きくする仕組みの一端明らかに:新潟大学/農業・食品産業技術総合研究機構
(2022年8月9日発表)
新潟大学と(国)農業・食品産業技術総合研究機構、デンマーク・オーフス大学、(公財)かずさDNA研究所、国立遺伝学研究所、(国)理化学研究所の共同研究グループは8月9日、「動くDNA配列」などと呼ばれるトランスポゾンが、植物の交雑に伴って活性化し動くことを明らかにしたと発表した。
交雑は両親の持つ遺伝子をシャッフルして新しい組み合わせを提供すると共に、トランスポゾンを活性化させ、新しい変異をもたらすことが示されたという。
生物の遺伝を担っているDNAは、たんぱく質を作るための遺伝暗号配列である、いわゆる遺伝子の部分(コーディング領域)と、それ以外の部分(ノンコーディング領域)から成る。
トランスポゾンは、ノンコーディング領域の主要な構成要素の一つで、ゲノムの中を動き回ることから「動くDNA配列」、あるいは可動遺伝因子、転移因子などと呼ばれている。
トランスポゾンが転移して、ある遺伝子内に挿入されると、例えば品種の異なる果物ができたりする。
研究グループは今回、異種を交配して雑種を作る、いわゆる交雑がトランスポゾンを活性化させる可能性をマメ科植物を使って調べた。特に、近縁の親同士の、普通に起こる交雑における活性化について、3つの組み替え近交系集団が構築されているモデル植物ミヤコグサを用いて調べた。
その結果、3つの集団すべてで少なくとも一種類のトランスポゾンが活性化され動いていることが分かった。特に、遠縁ではない集団でも複数のトランスポゾンが活性化され動いていたことから、交雑によるトランスポゾンの活性化にとって、必ずしも両親が遠縁である必要は無いことが分かった。
また、トランスポゾンの移動先の83%は遺伝子の中であることが分かり、組み替え近交系集団育成の数世代の間に、植物の育成に影響しうる遺伝的な多様性が生じていたことが分かった。
これらのことから、トランスポゾンの活性化は日常的に起きている可能性が示唆されるとともに、交雑が遺伝的多様性を大きくする仕組みの一端が明らかになったとしている。今後は、農作物の交雑育種におけるトランスポゾンの活性化現象の活用について検討したいという。