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二酸化バナジウムのナノレベル構造に新しい電子相を発見―モットトランジスタの開発を促進:東北大学/高エネルギー加速器研究機構(KEK)

(2020年9月17日発表)

 東北大学と高エネルギー加速器研究機構の共同研究グループは9月17日、二酸化バナジウムのナノ構造において、量子サイズ効果により新しい電子相が生じることを発見したと発表した。この発見により、モットトランジスタの開発に新しい展開が期待されるという。

 現在の半導体素子はCMOS(相補型金属酸化物半導体)と呼ばれる構造をしており、その性能は長年進化し続けてきたが、近年、原理的な限界に近づきつつあるといわれる。このため、新たな動作原理による高性能デバイス作りが試みられており、その一つがモットトランジスタ。

 モットトランジスタは、現在の電界効果トランジスタが半導体に電圧をかけ電子・正孔を注入して電気抵抗を切り替えているのに対し、電圧による強相関電子のモット転位(金属・絶縁体転位)を利用する新原理のトランジスタ。高い素子性能が期待されている。

 研究グループは今回、次世代デバイス材料として注目されている二酸化バナジウム(VO2)を対象に、この素材のナノ領域における振る舞いを調べた。

 VO2は、電子同士がお互いに強く影響しあう「強相関電子」を持ち、室温付近で電気抵抗率が数桁も変わる巨大な金属・絶縁体転移を示す機能性酸化物。転移は構造変化を伴って急激に起こるため、転移前後で電流を極めて大きく変化させることができることから、消費電力の低いトランジスタの実現が考えられている。

 しかし、この物質の金属・絶縁体転移では強い電子相関とバナジウムイオンの二量化(パイエルス転位)という二つの要因が複雑に絡み合っているため、ナノ構造体における振る舞いはよく分かっていなかった。

 研究グループは今回、高輝度軟X線放射光を用いて、光電子分光法により電子状態を、X線吸収分光法により二量化状態を同時に調べた。

 その結果、VO2ナノ構造の電子相図を得ることに成功、VO2をナノレベルまで薄くすると従来とは異なる新しい電子相が現れることを見出した。 

 VO2を薄くすると強相関電子が2次元的に閉じ込められるため、サイズ効果としてモット不安定性が増大する一方、パイエルス不安定性が抑制されると考えられるという。

 今回得られた知見に基づいて最適なデバイス構造を設計することが可能になり、モットトランジスタの開発促進が期待されるとしている。