コムギの栽培で発生する温室効果ガスを削減―硝化を抑える品種を世界で栽培すると10%弱減る:国際農林水産業研究センター
(2021年12月10日発表)
(国)国際農林水産業研究センター(国際農研)は12月10日、硝化を抑えるコムギの栽培により空気中に放出される温室効果ガスを低減できることが分かったと発表した。コムギ畑に蒔かれた窒素肥料からはCO2より遥かに強い温室効果を示すN2O(亜酸化窒素)が放出されていることからコムギの温室効果ガス発生低減をいかにして図るかが世界の農業の課題になっている。それに対し硝化を抑える品種「BNI強化コムギ(生物的硝化抑制強化コムギ)」を世界のコムギ生産地域の3割に導入すると今より温室効果ガスを9.5%削減できる解析結果が得られたという。
硝化は、アンモニア分が微生物の働きにより亜硝酸などに変わる現象。
BNIとは、その硝化が植物の分泌する物質によって抑制されることで、国際農研などの国際共同研究グループは今年の8月に世界初の窒素肥料の量を減らしても高い生産性を示すBNI強化コムギを開発したとプレス発表し注目されている。
今回の研究は、それをさらに進めライフサイクルアセスメント(LCA)と呼ばれる手法を使って評価を行ない、BNI強化コムギの栽培により温室効果ガスの放出をどれだけ減らせるのか解析した。
日本は温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロにするカーボンニュートラルに取り組んでいる。一方で世界の食料需要は今後も増え続けて2050年には2010年の1.7倍に達するとする予測が出ており、コムギ栽培からの温室効果ガス放出は今後さらに増える見通しにある。
コムギは、世界の三大穀物の一つ。その窒素肥料の使用量は、全体の約18%を占め作物の中で最も多い。しかし、実情は施肥した窒素肥料の多くが吸収されずに農地の外に流出している。さらに、硝化などの過程でCO2の約300倍もの強さを持った温室効果ガスN2Oが発生し大気中に放出されている。
研究では、BNI強化コムギがpH(ペーハー、ピーエイチ(酸アルカリ度))5.5~7.0の微酸性から中性の土壌で硝化抑制作用をよく発揮することが既に分かっていたことから先ずそれに基づき世界の農地土壌データベースを使ってBNI強化コムギが硝化抑制作用をよく発揮すると見られる場所を調べた。
すると、世界のコムギ生産総面積約2億4,000万ha(ヘクタール、1haは1万㎡)の約3割にあたる同7,200万haが条件を満たしていることが判明。窒素肥料由来の温室効果ガスを9.5%削減できるとする解析結果が得られたという。
国際農研は、さらに研究を進めるとしており、BNI強化コムギを活用しての世界に通用する地球にやさしい食料システムの開発が期待される。