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感覚神経細胞をつくる運命決定因子を解明―転写因子POU IVの働きを調査し、明らかに:筑波大学ほか

(2022年1月17日発表)

 筑波大学と甲南学園甲南大学の研究グループは1月17日、POU Ⅳと名付けられた転写因子が感覚神経細胞の分化に必須な運命決定因子であることを明らかにしたと発表した。さまざまな神経細胞が作られる仕組みの解明に一歩近づく成果という。

 感覚神経細胞は、外界からの刺激の光や音、匂い、触感などを受け取る神経細胞。脊椎(せきつい)動物では神経堤細胞およびプラコードと呼ばれる組織から作り出されており、神経堤細胞からは末梢神経系に分布する感覚神経細胞が、プラコードからは感覚器や頭部の感覚神経細胞が作られている。

 研究グループは無脊椎動物ホヤを使ったこれまでの実験研究で、神経堤細胞とプラコードから4種類の異なる感覚神経細胞が作られ、4種類の細胞のすべてが転写因子POU Ⅳを発現していることなどを見出した。

 このPOU Ⅳを導入すると感覚神経細胞の分化が異所的に誘導されることが知られているが、4種類の感覚神経細胞のうちのどれが分化するかは不明だった。

 研究グループは今回、4種類の感覚神経細胞のうちどの感覚神経細胞の分化が誘導されるかなどを調べた。

 その結果、まずPOU Ⅳの機能を阻害したところ、すべての感覚神経細胞の分化が阻害された。これにより、POU Ⅳは感覚神経細胞を作るために必要不可欠な運命決定因子であることが判明した。

 また、POU Ⅳを導入した個体では、4種類の感覚神経細胞のうちの2種類の性質を併せ持ち、かつ独自の遺伝子発現プロファイルを示す細胞が分化していることを見出した。

 研究グループはPOU IV以外にも、感覚神経細胞やその他の神経細胞の分化に重要な役割を果たしている遺伝子を多数同定していることから、今後さまざまな神経細胞への分化の仕組みを明らかにしていきたいとしている。