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ダイヤモンド製の高移動度トランジスタを開発―低損失電力変換や高速情報通信への応用視野に:物質・材料研究機構ほか

(2022年1月18日発表)

 (国)物質・材料研究機構と筑波大学の共同研究グループは1月18日、高性能なダイヤモンドトランジスタの作製に道を開く新技術を開発したと発表した。低損失の電力変換や高速情報通信に必要となる高移動度トランジスタの実現への貢献が期待されるという。

 半導体で電子が存在できない禁制帯(きんせいたい)のことをバンドギャップというが、ダイヤモンドは大きなバンドギャップを持つワイドバンドギャップ半導体で、高電圧、高温、高速、低損失動作などに適しており、次世代のパワーエレクトロニクスや高速情報通信などの開拓を目指して研究開発が精力的に進められている。

 これまでに、ダイヤモンド表面の炭素が水素と結合した水素終端ダイヤモンドを使って電界効果トランジスタが試作されているが、トランジスタの動作速度の決め手になるキャリア移動度が低く、ダイヤモンドの優れた特性を十分生かすことができなかった。

 研究グループは今回、トランジスタのゲート絶縁体に、これまで主に使われてきたアルミナなどの酸化物の代わりに六方晶窒化ホウ素を使用、また、製作過程で水素終端ダイヤモンド表面を大気に晒(さら)さない、という手法を導入し、高性能なトランジスタの開発に成功した。

 オン状態の移動度は酸化物などのゲート絶縁体を使う手法に比べて5倍以上に向上した。

 ゲート電圧をかけない時に電流が流れない動作のことをノーマリーオフ動作といい、安全面で重要だが、新手法を用いることでこれも実現した。

 水素終端ダイヤモンドに電気伝導性を生じさせるために電子を受け取るアクセプタが従来必要不可欠と考えられてきたが、それとは逆に、アクセプタを取り除いた素子構造を実現できたことが成功の鍵になったという。

 今回の成果は今後のダイヤモンドトランジスタ開発の新指針になり得るとしている。