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リンゴの変色に関わる染色体領域を見つける―カットしても色が変わらない品種実現の突破口に:農業・食品産業技術総合研究機構ほか

(2022年1月20日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構と青森県産業技術センターは共同で1月20日、リンゴはカットすると短時間の内に茶褐色に変色(褐変)してしまうが、その変色に関わる染色体領域を見つけることに成功したと発表した。大規模な遺伝解析を行い1万カ所に及ぶ情報の中から見つけた。褐変しないリンゴ育成の突破口になると期待されることから論文を公開してこの成果を誰でも利用できるようにしたという。

 切ったり、すりおろしたりしたリンゴの果肉は空気に触れると短時間のうちに含まれているポリフェノールとその酸化酵素とが反応して別の物質に変わる褐変を起こす。そのため、褐変しないリンゴは皆無に近く、世界でも青森県産業技術センターのりんご研究所が2008年に登録した「あおり27」とカナダの研究機関が開発した1品種の計2品種しか知られていない。

 だが、「あおり27」には流通期間が普通冷蔵で2カ月間程度と短い弱点があり、近年人気化しているカットフルーツ(切ったフルーツ)の分野などへリンゴの用途をさらに広げていく上からカットしても褐変しない新品種の開発が求められている。

 しかし、その実現に向けての果肉の褐変性に関わる遺伝情報はこれまで不明だった。そこで、今回両機関の研究グループは進展が著しいゲノム(全遺伝情報)の解析技術を使って大規模な遺伝解析を行い褐変性の原因となる染色体領域を見つける研究に取り組んだ。

 研究は「あおり27」など28の品種を親とする交配を行って育てた468本の樹から収穫したリンゴの全染色体領域にわたる遺伝解析を実施した。

 その結果、果肉の褐変しやすさに関わる原因領域が第5染色体、第16染色体、第17染色体の3カ所にあることを突き止めた。

 さらに、第5染色体はポリフェノール酸化酵素(ポリフェノールオキシダーゼ)の領域、第16と17染色体はポリフェノール類(カテキン、プロシアニジン、クロロゲン酸)の関与する領域と一致し、リンゴの果肉の褐変性はポリフェノール量とその酸化酵素の働きに依存していることを確認した。

 3カ所の染色体領域を識別することができるDNAマーカー(DNAの塩基配列の違いを見分けるための一種の目印)も開発済みで、研究グループは「開発したDNAマーカーを利用すれば幼苗(ようびょう:小さな苗)の段階で褐変しにくい樹の選抜が可能になる」といっている。

 これまで得られる確率が低いとしてほとんど取り組まれてこなかった難褐変性のリンゴ開発が進むものと期待される。