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プラスチックフィルム上に高性能な半導体薄膜を合成―フレキシブルデバイスでSi製集積回路並の機能実現へ:筑波大学

(2021年12月23日発表)

筑波大学は12月23日、プラスチックフィルム上にキャリア移動度がシリコン(Si)基板並の高性能な半導体薄膜を作ることに成功したと発表した。Si製集積回路(IC)に匹敵する情報処理機能をプラスチックフィルムに搭載することを可能にする革新的な成果という。

プラスチックフィルムは軽量で柔軟なため、その上に半導体薄膜を搭載したフレキシブルでウエアラブルな各種半導体デバイスの開発が進んでいる。

しかし、プラスチックフィルムは耐熱性に乏しいことから、半導体薄膜には低い温度で合成できる有機物や酸化物が用いられており、これらの材料は、トランジスタの動作速度の決め手になるキャリア移動度が単結晶シリコン基板と比べると一桁以上低く、高度な情報処理機能を持たせるには材料革新が必要とされていた。

 筑波大チームは、古くから半導体材料として知られ、Siを上回る高いキャリア移動度を持つゲルマニウム(Ge)に注目、(国)産業技術総合研究所とゼノマックスジャパン(株)の協力を得て、Si製IC並の性能を持つGe製半導体薄膜の開発に挑戦した。

 単結晶Ge基板をベースにしたトランジスタは、近年、単結晶Siトランジスタを上回る高い性能が得られている。また、GeはSiよりも低温で結晶化できるため、ガラスやプラスチックフィルムなどの上に構築する薄膜トランジスタの材料としても有望とされている。

 しかし、プラスチックフィルムの上に直接薄膜を合成するとその品質は極めて悪く、高いキャリア移動度は得られなかった。

 研究チームは今回、Ge薄膜の結晶化過程を制御するとともに耐熱プラスチックフィルムを用いることにより問題を解決した。

 200℃以下の低温で非晶質のGe薄膜をつくり、これを350℃以上で熱処理すると固相成長しGe薄膜は多結晶になるが、プラスチックフィルム表面を酸化ゲルマニウムでコーティングした上で固相成長を行うと多結晶Ge薄膜の結晶粒が劇的に拡大することを発見した。さらに耐熱プラスチックの採用により500℃までの高温プロセスで結晶欠陥を十分低減することに成功した。

 多結晶Ge薄膜の大粒径化と高品質化の結果、キャリア移動度は単結晶Si基板の正孔移動度をも上回る値に達した。成果は半導体デバイスの革新への寄与が期待されるという。