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革新的トランジスタ―カーボンナノチューブで実現:物質・材料研究機構/産業技術総合研究所ほか

(2021年12月24日発表)

 (国)物質・材料研究機構と(国)産業技術総合研究所、東京大学は12月24日、チューブ状炭素分子「カーボンナノチューブ(CNT)」の構造を局所的に変えてナノメートル(1nmは10億分の1m)レベルの極微のトランジスタにすることに成功した。コンピューターなどさまざまな電子機器に使われている既存のシリコン半導体を超える、革新的な電子素子の実現につながると期待している。

 CNTは炭素原子が亀の甲状に相互に結合したシート状の分子を筒状に丸めたチューブ構造を持っている。研究チームは今回、透過型電子顕微鏡を用いてCNT内の立体構造を局所的に変化させ、金属状態にした部分と半導体部分を組み合わせることで、極微のトランジスタにすることに成功した。

 研究チームは、透過型電子顕微鏡で観察しながらCNTを局所的に加熱、三次元操作が可能な二本の探針(たんしん)を使ってCNTの立体構造の一部だけを変える技術を開発。この技術を用いてCNTの電気的な特性を局所的に変化させることに成功し、約2.8nmという極微のチャネル長を持つ直径0.6nmのトランジスタを作製した。実験では0.5Vの駆動電圧で0.74㎂(マイクロアンペア、1㎂は100万分の1A)の電流を室温でオンオフできることがわかり、トランジスタとして機能することを確認した。

 CNTを作る際に、シート状の炭素分子を筒状にする際の丸め方をわずかに変えるだけで、金属のような伝導体になったり半導体になったりすることは従来からよく知られていた。しかし、これまではCNTの立体構造を部分的に変えて電気的特性を自由に制御できず、トランジスタ化することは難しかった。

 研究チームは今後、実用的な原子レベルの精度での材料構造を検討し、単一分子、単一原子レベルの量子機能素子の設計と製造を目指すとしている。