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新種の線虫を発見―人工培養で進化研究に利用も:筑波大学/森林総合研究所ほか

(2021年6月17日発表)

 筑波大学と(国)森林総合研究所の研究チームは6月17日、ヒトや動物の寄生虫である回虫などの仲間「線虫」の新種を発見、カビなどの糸状菌を餌とすることで人工的に培養することに成功したと発表した。線虫には生物実験用のモデル生物になるなどの有用種のほか、ヒトや家畜に寄生する有害種も含まれているが、その多様性については未解明な点が多く安定的な培養系の確立が望まれていた。
 
 線虫は細長い糸状、あるいは円筒状の生物で、動物や植物に寄生するなどして地球上のあらゆる環境中に生息している。体長が1mm以下のものから数mに達するものまでおり、その多様性は昆虫よりも大きいのではないかともみられている。
 
 研究チームは今回、筑波大山岳科学センター菅平高原実験所(長野県上田市)の樹木園にあるシラビソの倒木と、そこから羽化した昆虫「トドマツノコキクイムシ」から新種の線虫を分離した。
 
 この線虫を詳しく調べたところ、糸状菌を食べる祖先から複雑な進化を経て成立したグループであることが分かった。さらにその過程で、肛門と直腸を失うという昆虫寄生種の特徴を反映した形態的特徴を持つようになったことが明らかになった。この線虫は灰色カビなど特定の菌をエサとして与えることで安定的に育てられることも確認、長期的な培養株を確立することに成功した。
 
 新種が属するアフェレンコイデス科の線虫は、細菌を食べる線虫の仲間以外のほぼすべての食性を持つ線虫の中でも特に複雑な食性進化を経ている。今回、その長期培養株が確立できたため研究チームは今後、その生態や遺伝情報などについて多面的な解析を進める計画で、「アフェレンコイデス科の線虫の進化過程だけでなく、重要農林業害虫の摂食、寄生性に関する知見が得られる」と期待している。