[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

絶滅危惧哺乳類「スナメリ」の100年間の数の変化明らかに―海底の堆積物に含まれるDNAの解析で推定:松山大学/愛媛大学/京都大学/麻布大学/国立環境研究所

(2026年6月15日発表)

 松山大学、愛媛大学、京都大学、麻布大学、国立環境研究所の共同研究グループは6月15日、瀬戸内海・別府湾の海底堆積物中に残るDNAを解析することで絶滅が危惧されている海棲哺乳類(かいせいほにゅうるい)の一種「スナメリ」の過去100年間の長期にわたる個体数(数)の変化を推定することができた、と発表した。

 スナメリは、ペルシャ湾から日本にいたるアジアの海に生息する体長が160~170cmほどの哺乳類。瀬戸内海は、その主要生息海域の一つ。しかし、スナメリは、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種(EN)に分類され、愛媛県や大阪府などのレッドリストでも絶滅危惧Ⅱ(VU)類に指定され絶滅が危惧されている。

 こうしたことから、環境省は「瀬戸内海の環境のシンボル・スナメリを大切にしよう」と訴えている。

 しかし、スナメリのような小型の海棲哺乳類の数の変化を長期間にわたって調べ続けるには多大なコストと労力を要する。そのため、観測データが不足し現在に至るまでの長期にわたる数の変化状況は十分に解明されておらず、絶滅リスクの評価が行えない状況が続いている。

 それを解決しようと、松山大学・槻木 玲美(つげき・なるみ)教授、愛媛大学・加 三千宣(くわえ・みちのぶ)教授、同・国末 達也 教授、同・中根 快(元)大学院生、京都大学・土居 秀幸 教授、麻布大学・落合 真理 講師、環境研・磯部 友彦 主幹研究員、の共同研究グループは、海底に積もり積もった生物の組織片、排泄物などを含んだ泥の層の中に含まれているDNAに着目。別府湾の奥の海底に堆積した海底泥を採泥器で柱状に採取し、1cm間隔で切り分け、中に含まれるスナメリのDNA配列を選択的に検出できる「プライマー・プローブ」と呼ぶセンサーを開発してスナメリのDNA量の長期にわたる変化の状況を短期間で明らかにできるようにした。

 その結果、過去100年間に相当する堆積物から検出されたスナメリのDNAは、1950年代に急増した後、1960年代初頭に急減し、その後2000年代以降に回復していたことが分かった。

 さらに、1960年前後にみられたスナメリの急速な減少の要因について検討したところ、環境汚染物質として世界的問題となって製造が禁止されたPCB(ポリ塩化ビフェニル)の濃度が高い時期ほどスナメリDNA濃度が低下している傾向が認められ、1960年代におけるスナメリの数の減少が化学物質による環境汚染と関係している可能性が示唆されたとしている。

 研究グループは、この成果はスナメリだけでなく、さまざまな海棲哺乳類への応用が可能と見ており「豊かな海を象徴する海棲哺乳類がこの100年でどのように変化してきたかを“見える化”することは、絶滅危惧種の保全、海洋環境管理など幅広い分野への貢献が期待される」と話している。