[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

「松やに」から蓄電池電極材の黒鉛の製造が可能に―樹液の樹脂酸から黒鉛前駆体のピッチを合成:産業技術総合研究所

(2026年7月1日発表)

 (国)産業技術総合研究所は7月1日、「松やに」に含まれる樹脂酸から、黒鉛を作り出すための前駆体ピッチを合成することに成功したと発表した。このピッチから得られた黒鉛はリチウムイオン電池の電極材料として使えることが示されたという。

 黒鉛は、導電性や熱伝導性、耐熱性、潤滑性などに優れ、製鉄業における黒鉛電極や、半導体製造に必要な耐熱性るつぼ、ヒーター、さらに蓄電池の電極材料など、幅広い分野で利用されている結晶状の炭素材料。

 自然界の鉱物資源である天然黒鉛と、石炭や石油由来の原料から製造される人造黒鉛があり、それぞれの特性に応じて使い分けられている。わが国では天然黒鉛・人造黒鉛ともに海外依存度が高いことから安定供給の面で課題があり、人造黒鉛の供給を増やすための原料多様化の重要性が高まっている。

 人造黒鉛の製造では石炭・石油から得られる多環芳香族化合物を主成分とするピッチが前駆体として利用される。産総研は、人造黒鉛の原料として必須であるこのピッチを、植物由来の成分から合成するという、これまで実現されていなかった課題に取り組んだ。

 研究では、既存ピッチの分子構造に基づき、黒鉛化に適した構造を設計した。その結果、樹脂酸を出発原料としてピッチ様構造を構築できることを見出した。樹脂酸が松やにに豊富に含まれることに着目し、松やにの混合物を用いてピッチを得、分子構造を解析したところ、このピッチが黒鉛化可能な構造特性を備えていることがわかった。

 さらに、無触媒下で段階的に熱処理を行い、得られた結晶の構造をX線解析で調べたところ、黒鉛結晶が発達していることが確認された。この黒鉛結晶からは、黒鉛に特徴的な充放電曲線が観測され、リチウムイオン電池の負極材料への適用可能性が示された。

 これらの一連の研究により、植物由来分子から黒鉛前駆体を合成する新たな材料設計指針が得られた。石炭・石油原料に依存していた人造黒鉛製造の原料選択肢の幅を広げる成果で、今回の研究はバイオマス由来の炭素材料設計に新たな展開をもたらすことが期待されるとしている。

(画像提供:産業技術総合研究所)