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成長の早いカビは微小トンネルを抜け出にくい―カビの発酵や分解、病原性カビ汚染などの防御に応用できる可能性:筑波大学ほか

(2021年3月16日発表)

 筑波大学生命環境系と名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所などは3月16日、身近なカビの糸状菌を使って微小トンネルを通過させる実験をしたところ、成長の早い菌糸は途中で停止するか、通過後に体型維持ができなくなることを見つけたと発表した。成長の遅い菌糸は体型を変化させながら通過できた。カビの細胞形態の可変性を知る興味深い成果で、家屋や食品、文化財などのカビ汚染の制御などにつながる可能性があると見ている。

 糸状菌は自然界に広く生存している微生物で、菌糸と呼ばれる菅状の先端を伸ばしながら増殖する。その過程で酵素を出して有機物を分解し、栄養を吸収する。枯れ木や枯葉などを分解して物質循環を担っている。

 さらに植物の根に共生して成長を助けたり、酒や味噌、醤油などの発酵食品の生産に関わるなど有用な働きが多い。その反面、植物や動物、昆虫の細胞に侵入して病原性を発現し、家屋や食品、文化財などをカビ汚染させて被害を与えるケースがある。

 糸状菌は、宿主細胞の隙間の微小空間に菌糸を侵入させて成長することから、体形を柔軟に変化させる性質がある。しかし数㎛(マイクロメートル、1㎛は1,000分の1mm)の小さな菌糸の動的観察はこれまで難しかった。

 研究チームは菌糸直径より小さなトンネル状のマイクロ流体装置(幅1㎛、長さ50〜100㎛)を作り、糸状菌が通過する様子を顕微鏡でライブ観察した。細い流路を無事通過する菌糸や、通過中に成長が停止したり通過しても体型を維持できなかったものがあった。

 そこでアカパンカビやモデル糸状菌など系統の異なる7種類の糸状菌を使って詳細に観察すると、菌糸の幅や系統分類とは関係なく、菌糸の成長速度との相関が強いことが明らかになった。成長の遅い菌糸は細胞の形を柔軟に変えて流路を通過できたのに対し、成長の早い菌糸は体を変化させにくく、細いトンネルを通過しにくいことが分かった。

 成長速度の早いアカパンカビなどは、成長が早く新たな栄養源や空間を素早く占領できるメリットがある。その反面、細胞内の膨圧が高く微小な空間に入って細胞形態を維持するための可変性が低い。つまり、細胞形態の変りやすさと成長速度とは両立できないことが明らかになった。

 糸状菌が微小空間に侵入して成長するメカニズムが解明できれば、生態学的役割や病原性、カビの制御などにつながることが期待できると見ている。