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メタンの大気中濃度・放出量の30年間の変化を分析―地域別、発生源別の変動が分かり、パリ協定の緩和戦略に役立つと期待:国立環境研究所ほか

(2021年1月29日発表)

 (国)国立環境研究所と(国)海洋研究開発機構、千葉大学の国際研究グループは1月29日、温室効果ガスの一つメタンの大気中濃度の増加率の変動を解析した結果を発表した。過去30年間の地上と宇宙(人工衛星)からの観測を基に、増加率を「鈍化期(1988−1998年)」「停止期(1999―2006年)」「増加期(2007―2016年)」の3期に分類。メタン濃度が、石炭・石油の採掘や火山の大規模噴火、反芻(はんすう)動物の飼育や廃棄物処理の影響で増減することは知られているものの、どの地区で何が原因で変動するは分かっていなかった。この結果は温暖化抑止を目指すパリ協定の緩和戦略に生かされる。

 温室効果ガスは排出量の最も多い二酸化炭素(328億t)がよく知られている。ところが温室効果の寄与率となると、メタンは二酸化炭素の25倍から80倍も高いことからその増減が注目されている。

 研究グループは、「大気化学輸送モデル」による「逆解析」を使って長期的な変化を調べた。

 大気化学輸送モデルとは、大気汚染物質の発生、輸送、化学反応、沈着の諸過程を物理法則や科学法則に基づいて数学的に解くことで、どの場所で変化したかを記述できる数値モデル。

 「逆解析」は原因から結果を導く普通の手法とは逆に、結果から原因を解析し、推定するもの。メタンの放出源が、北半球中緯度側から低緯度側に移り、放出量も北半球で大きいことが分かる。

 1980年代に欧州とロシアからの放出が目立ったのは、石油、天然ガスの採掘やウシなどの反芻動物のゲップによるもので、1988年以降に減少した。さらに20世紀最大のピナツボ火山の噴火(1991年)による湿原からの放出量の低下や度重なるエルニーニョ現象の影響で、1990年代にメタン濃度の増加速度が鈍化した。

 2000年代前半はメタン濃度の増加が停止していたものの2007年から再び増加した。原因は中国の石炭採掘増加と、南米やアフリカ北部、東南アジアでの反芻動物の飼育と廃棄物処理によるものだった。

 2010年以降は、中国の石炭採掘による放出は鈍ったが、北米での石炭と天然ガスの採掘によって放出が増加した。日本国内のメタン放出量は1980年代の3,300万tから、2000年代にかけて約35%減少し、それ以降は一定になった。

 この成果によってメタンが放出される場所や種類などが特定可能になることが確かめられた。

 気候変動の緩和対策として、メタンの排出源である化石燃料採掘や家畜の飼育、廃棄物のどれを抑制すれば有効になるかが分かる。パリ協定に向けた緩和戦略を作る上で極めて重要になると期待されている。