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ヒスタミン受容体の作用薬に心臓・腎臓の機能障害を改善する効果―心腎連関発症の仕組みの理解や薬剤開発促進へ:筑波大学

(2020年1月28日発表)

 筑波大学は1月28日、認知機能障害やてんかん発作を標的として開発されたヒスタミン受容体の作用薬が、「心腎連関」障害を改善する効果があることが分かったと発表した。人為的に心不全を起こさせたANSマウスでは腎臓の機能も障害されており、心腎連関の病態モデルとなることも分かったため、心腎連関の発症メカニズムの理解や薬剤の研究開発の促進が期待されるという。

 心腎連関は、心臓と腎臓それぞれの障害が相互作用し、両臓器の機能が障害されるという概念。しかし、腎臓の機能低下が心臓血管病の発症リスクを高めたり、心臓血管病患者が高率に腎機能障害を引き起こしたりする仕組みは分かっていない。

 研究グループは今回、心不全を呈するANSマウスを用い、腎臓の機能変化について解析した。ANSマウスは、血圧上昇ホルモンであるアンジオテンシンを投与したり、腎を片方摘出したり、食塩水負荷をかけたりし、心機能の低下や心肥大といった心不全を引き起こさせるようにしたマウス。

 解析の結果、ANSマウスには心不全に加え、腎尿細管障害や糸球体の構造異常が認められた。また、たんぱく尿を伴う慢性腎臓病の所見が確認されたことから、ANSマウスが心腎連関の病態を解析するうえで有用なモデルであることが明らかになった。

 ANSマウスの血中成分を質量分析で解析したところ、低分子アミンであるヒスタミンが増加していることが分かったが、心腎連関でのヒスタミンの役割はこれまで未解明だった。そこで、ANSマウスにヒスタミン受容体阻害剤を投与したり、あるいは、遺伝的にヒスタミンを産生できないANSマウスを作ってヒスタミンとの関係を調べたところ、心腎障害の悪化が認められた。それに対し、ヒスタミン受容体の作用薬(Immはイメトリジン、受容体と結合し細胞に作用する物質)はANSマウスの心腎障害に保護的に作用することが見出された。

 さらに、RNAシークエンスによる腎臓の網羅的な遺伝子発現解析の結果、ANSマウスの腎臓では、炎症関連遺伝子の発現が有意に亢進しており、ANSマウスで実際に急性期炎症が生じていることを突き止めた。これらの変化はImmの投与で軽減したことから、Immが炎症を抑える作用をもつことが判明したという。

 今回の研究による病態モデル動物の作製と評価や、生理活性物質の分析探索と遺伝情報解析を組合せた成果は、心腎連関発症の仕組みの理解や、それにもとづく薬剤の開発につながる波及効果が期待されるとしている。