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高性能有機半導体薄膜に新技術―基板吸着で分子形状制御:東京大学/東北大学/大阪大学/筑波大学ほか

(2019年1月23日発表)

 東京大学、筑波大学などの研究グループは1月23日、大面積化が容易な有機半導体の高性能薄膜を作製する技術を開発したと発表した。基板に有機半導体の溶液を吸着させるだけで100兆個以上の分子の形を精度良くそろえ、半導体素子の性能を40%以上向上させることに成功した。有機エレクトロニクス材料の高性能化・高機能化に役立つという。

 研究グループには東京大学、筑波大学のほか、東北大学や大阪大学、広島大学、米スタンフォード大学、産業技術総合研究所、物質・材料研究機構の研究者が参加した。

 有機半導体は基板上に印刷で電子回路を容易に作製でき大面積化が容易で柔軟性もあるなど、単結晶による半導体素子にはない特長を持つ。ただ同一の化学構造を持つ有機分子でも、その立体構造の違いや多数の分子が集合したときの並び方によって、半導体としての性質が異なることがある。

 研究グループは今回、インク状にした有機半導体の単結晶薄膜を印刷技術で基板上に作製、放射光施設の強力なX線を利用してその分子形状などを詳しく解析した。その結果、有機半導体を基板に吸着させるだけで、100兆個以上のすべての有機分子の形状を同じように変えられることを突き止めた。さらに、この現象は基板と接する厚さ4nm (ナノメートル、1nmは10億分の1m)の一分子層からなる膜だけで起きていた。この結果から、超薄膜の厚さを制御することで物理吸着による分子形状の変化が抑制され、半導体の性能指標「電荷移動度」を40%以上向上させられることが分かった。

 有機半導体を高性能化するには、合成化学で分子一つひとつの化学構造を制御するのが一般的だった。これに対し研究グループは、今回の物理吸着による分子形状の変化は「この常識を打ち破る結果」だとして、今後は異種材料の境界面を制御することで有機エレクトロニクス材料の高性能化・高機能化に道が開かれるとみている。