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重希土類使わず高耐熱磁石粉末―自動車駆動用モーターに応用も:産業技術総合研究所

(2019年10月21日発表)

 (国)産業技術総合研究所は10月21日、産出地が中国など一部地域に偏っている重希土類元素を使わずに高温環境下で高い性能を発揮する磁石になる希土類磁石粉末の合成技術を開発したと発表した。自動車駆動用モーターなど高耐熱性が欠かせない磁石作りに使えるとして、今後は磁石粉末の焼結技術などに取り組む。

 開発したのはサマリウム-鉄-窒素(Sm2Fe17N3)系磁石粉末。高耐熱磁石になる可能性がある材料として注目されてきたが、これまでその可能性は十分発揮されていなかった。産総研はその原因が粉末の製造過程で微細化した原料粒子が凝集して粉末が粗大化するためと判断、凝集を防ぐ製法の開発に取り組んだ。

 そのため還元拡散法と呼ばれる従来の製法を改良、粉末を撹拌しながら熱処理を同時に進められ回転式熱処理技術を開発した。その結果、粗大な凝集粒子の形成をほぼ回避することができ、より微細なSm2Fe17N3系磁石粉末が得られるようになった。磁石の性能を確認したところ、性能指標の一つである保磁力が室温で約32kOe(Oe、エルステッド)であることが分かった。また、自動車駆動用モーターに使うための目安となる200℃では約11kOeという高い値が実現できた。

 自動車駆動用モーターには現在、ネオジム-鉄-ホウ素(Nd-Fe-B)磁石が使われているが、高耐熱性を実現するためにジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)といった重希土類元素を添加する必要があった。ただ、これらの重希土類元素は埋蔵量が少なく産出地も一部地域に限られており価格や供給が不安定なため、同じ希土類でも資源量が比較的豊富なサマリウムなどの軽希土類元素の利用が求められていた。

 今回開発した磁石粉末について、産総研は永久磁石にした際の重要な性能指標である残留磁化がまだ本来の性能の60%程度にとどまっているとして、「今後、粒子の分散性を向上させて残留磁化を改善する」と話している。