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高温超電導を用いた磁石で30テスラ超の高磁場を発生―次世代の超高磁場NMR装置の開発に向けて大きく前進:理化学研究所ほか

(2019年9月28日発表)

 (国)理化学研究所と物質・材料研究機構、ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー(株)などの共同研究グループは9月28日、高温超電導線材をらせん状に巻いた超電導磁石で、これまで困難とされてきた30テスラ超の高磁場発生に成功したと発表した。極低温冷却を必要とする金属系の低温超電導線材コイルでは実現できなかった次世代の超高磁場NMR装置の開発などが期待されるという。

 現在実用化されている核磁気共鳴(NMR)装置や磁気共鳴画像(MRI)装置は、金属系の低温超電導線材でできており、磁場の強さは24テスラ程度が上限になっている。これを上回る高磁場を発生できると創薬や医療などへのより大きな貢献が期待されるため、30テスラ超の1.3ギガヘルツ永久電流NMR装置の開発をめぐって国際的な競争が展開されている。

 磁石のコイルに高温超電導線材を用いると、24テスラを大幅に上回る高磁場においても超電導状態が保てると考えられることから、高温超電導線材製の高磁場用コイル開発が試みられており、これまでに米国のグループがコイルをロールケーキ状に巻く方式で32テスラを実現している。

 しかし、この方式だと膨大な数のつなぎ目を超電導接合にする必要があり、この接合が極めて困難という問題がある。また、欧州のメーカーが1.2ギガヘルツNMR装置で28テスラを実現しているが、1.3ギガヘルツNMR装置に必要な30.5テスラの磁場の発生は達成されていない。

 共同研究グループは今回、3層構成から成る独自のコイルを考案、これらの3層コイルをすべてらせん状に巻いて、磁場の発生効率を最大に高めた超電導磁石を作製した。

 この超電導磁石の最内側の内層コイルは、高磁場での超電導特性に優れるレアアース(RE)系の高温超電導線材を用いて作製、中層コイルはビスマス(Bi)系高温超電導線材、外層コイルは液体ヘリウムで冷却する金属系の低温超電導線材で作製した。

 高磁場発生の要となるRE系高温超電導コイルは、超電導状態が壊れて常電導状態に転移する「クエンチ」 と呼ばれる現象が起きると、コンマ数秒で溶断温度にまで上昇して焼損する。そこで、コイル層間に銅とポリマーの複合シートを挟み込んで巻く方式を取り入れ、焼損の防止に成功した。運転試験で30テスラ超の高磁場の発生を確認した。

 今後は、別途開発を進めている超電導接合技術、永久電流運転技術と組み合わせて次世代1.3ギガヘルツNMR装置の実現を目指すという。