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火星衛星の微生物による汚染防止へ―探査の国際ルール作りに貢献:宇宙航空研究開発機構ほか

(2019年9月6日発表)

 (国)宇宙航空研究開発機構(JAXA)と千葉工業大学など4大学は9月6日、火星の衛星探査に向けた国際ルール作りに貢献したと発表した。JAXA主導で推進する火星衛星探査計画(MMX)で採取する試料に含まれる可能性がある微生物で地球が汚染される危険性を定量的に評価、安全なことを科学的に示し国際的にも承認された。衛星探査だけでなく本格的な火星探査にも役立つと期待している。

 JAXAと千葉工大のほか、東京大学、東京薬科大学が共同で実施した「火星衛星の微生物汚染評価に関する科学的研究」で明らかにした。

 惑星探査では国際宇宙空間研究委員会(COSPAR)が惑星保護方針を定め、惑星から持ち帰る試料に含まれる可能性がある未知の微生物による地球汚染や、反対に地球の微生物による惑星の汚染を防止するよう定めている。火星については既にルールができているが、衛星のフォボスとダイモスにはまだできていなかった。

 そこで研究チームは、過去500万年以内に火星表面からこれらの衛星に微生物が運ばれた可能性を分析。仮に衛星に微生物が生き残っているとすれば、約10万年前に火星上に直径10kmのズニルクレーターができたときに飛来した岩石に付着したものであることを示した。他の巨大クレーターは形成時期がより古く、仮に微生物が衛星まで運ばれたとしても宇宙を飛び交う放射線で滅菌されてしまうことを明らかにした。

 さらにズニルクレーターができたときに放出された火星の物質が衛星まで到達する割合を計算して衛星上でどのように分布するか、クレーター形成後の10万年間を生き延びた微生物が衛星表面にどのような密度で分布するかを計算した。その結果をもとに、JAXAの衛星探査計画で採取する試料に微生物が混入する確率は100万分の1を下回ることを示した。

 この結果を受け、COSPAR理事会は小惑星から試料を持ち帰る「はやぶさ2」と同じレベルで惑星保護方針を定めれば問題ないとして、JAXAの火星衛星探査計画に対する勧告を了承した。