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難培養のアーキア(古細菌)の分離培養に成功―微生物リソースとして研究機関に提供へ:理化学研究所

(2019年6月11日発表)

 (国)理化学研究所は611日、難培養のアーキア(古細菌:こさいきん)の新種を分離培養することに成功したと発表した。研究グループは栃木県の温泉地において温泉水や泥を採取。微生物学の最も基本的な分離培養により増殖を行って新難培養アーキアだけを含む培養液を得た。アーキアは、謎の多い生物でその理解に役立つことが期待される。理研は、この新規アーキアを微生物リソースとして保存し外部の研究機関が利用できるようにしている。

 アーキアは、日本名に細菌という文字が付くが、細菌とは異なる系統に属し、遺伝子も全く異なる微生物。真核生物(人間や動物など)でもバクテリア(細菌)でもない「第3の生物」と呼ばれている。

 具体的には、高温、高塩分、強酸性といった、いわゆる極限環境を好む微生物の多くが含まれ、たとえば、50℃を超える高温の温泉環境には数多くのアーキアが生息していることが分かっている。

 しかし、そうした温泉環境のアーキアは、存在が見つかってから20年以上経つものの未だその多くは培養できておらず、生理機能は不明で、生態系の中での役割もよく分かっていない。

 その大きな理由は、培養するための有効な手立てが見つかっていないからで、もし難培養アーキアを培養できれば、その生理機能を室内で検証することができるようになるだけでなく、どのような進化の過程を経てその機能を獲得したのかについても答えが得られる可能性がある。

 こうした理由から理研バイオリソース研究センター(茨城県つくば市)の微生物材料開発室は、以前から栃木県の温泉地に生息する微生物の研究に取り組み、培地に原子価が三価の鉄を加えることで全く予想されなかった新しい好熱性バクテリアを分離培養できることを2016年に発見している。今回同様に培地に鉄を加え新しい好熱性の難培養アーキアを分離培養することに成功した。

 研究は、栃木県内の温度57℃、pH(酸アルカリ度)2.2の温泉地から温泉水や泥を採取、三価の鉄を加えた培地にその温泉試料を添加、様々な温度とpHで培養を数週間続ける方法で行った。その結果、いくつかの培養液で微生物の増殖が確認され、全ゲノム(遺伝情報)解析や詳細な性状解析の結果、新規の好熱性アーキアであることが分かった。

 このアーキアは、酸素があると増殖しない絶対嫌気性で、生育する温度幅は60~70℃、生育pH4.5~5.5、と非常に狭い温度・pH範囲内でしか生育しない。

 研究グループは、この新規好熱性難培養アーキアを「C. calidus」と名付けた。