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乾燥しても死なず生き返る細胞の復活メカニズム明らかに―活性酸素除去遺伝子やDNA修復遺伝子が活発に発現:慶應義塾大学/理化学研究所/山口東京理科大学/農業・食品産業技術総合研究機構

(2018 年12月19日発表)

 慶應義塾大学、(国)理化学研究所、(国)農業・食品産業技術総合研究機構などの研究グループは1219日、乾燥させても死なず、水を得ると細胞分裂を再開する「Pv11」という細胞の乾燥耐性を調べ、活性酸素の影響を除去する遺伝子や、DNAを修復する遺伝子の発現が乾燥耐性・再水和復活に深く関与していることを見出したと発表した。これらの遺伝子群を他の生物に導入すれば乾燥に強い生物をつくれる可能性があるという。

 Pv11細胞は、昆虫ネムリユスリカの胚由来の培養細胞。ネムリユスリカの幼虫はアフリカ原産で、乾季に完全に乾燥しても無代謝状態に入ることで死を回避し、水を得ると元の生命活動を復活する。

 Pv11細胞のこの乾燥耐性は、糖類トレハロース処理による乾燥耐性の準備、乾燥による代謝の完全停止、再水和による蘇生、という一連の過程を経て達成される。しかし、どのような遺伝子がこの過程に関与しているのかは、これまで網羅的に調べられていなかった。

 研究グループは今回、トレハロース処理時、乾燥時、再水和時における全遺伝子の発現量を調べ、各段階で働く特徴的な遺伝子である発現変動遺伝子を推定するとともに、その機能を解析した。

 その結果、トレハロース処理時には、生体にとって有害となる活性酸素によって生み出される過剰な酸化物質を分解する抗酸化因子によって多くの遺伝子が占められていた。すなわち、トレハロース処理は生体機能の障害となる物質を除去する遺伝子を発現させることで、乾燥耐性機能を発揮させる準備段階であることが示唆された。

 乾燥時には、同様に、生体に有害な物質の除去遺伝子の高い発現が見られるとともに、たんぱく質の翻訳に関わるリボソームたんぱく質が有意に発現を減少させていることが明らかとなった。乾燥により必要性のなくなった遺伝子の発現を抑えることで省エネ化を達成している可能性が示唆された。

再水和過程は、乾燥に伴って蓄積したDNAへのダメージを治すことで細胞の機能を通常の状態に戻す役割を持っていることが示唆された。

 研究グループは今後、今回見出された遺伝子群が、生き返るために必須の遺伝子であるかどうかを明らかにする予定。乾燥耐性に必須の遺伝子が分かると、冷凍保存に代わる常温乾燥保存という新しい技術の開発に繋がるとしている。