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火力発電所の排ガス中のCO2を有用化学品に変換―触媒を用い低コスト省エネルギーで尿素誘導体を合成:産業技術総合研究所ほか

(2021年5月14日発表)

 (国)産業技術総合研究所と東ソー(株)の共同研究グループは5月14日、火力発電所の排気ガスなどに含まれる低濃度のCO2を有用化学品である尿素誘導体に変換する技術を開発したと発表した。大きなコストやエネルギーをかけずに地球温暖化ガスのCO2を回収・活用できることから、CO2排出量削減への貢献が期待されるとしている。

 新技術は、石炭火力発電所の排気ガスに含まれる濃度15%程度のCO2を対象としたもの。火力発電所が排出するCO2は我が国のCO2総排出量の約3割を占めており、その回収・活用の促進が課題になっている。

 これまでに低濃度・低品質のCO2を回収し地下貯留する技術や有用化学品に変換する技術が研究開発されてきたが、コストやエネルギー消費が大きいことなどが普及の足かせになっていた。

 研究グループは今回、低濃度・低品質のCO2を、濃縮・圧縮・精製といったコストやエネルギーのかかる工程を経ずに、有用化学品に効率よく変換できる触媒反応技術を開発した。

 新技術は、COを化学品の基礎原料であるアミンと化学吸着させてカルバミン酸アンモニウム塩を得、これにチタン触媒を作用させて、エチレンウレアなど様々な尿素誘導体を合成する。

 尿素誘導体のエチレンウレアはエチレン尿素または2-イミダゾリジノンとも呼ばれる化学品で、塗料や樹脂、爆薬、農薬、医薬品の原料として工業的に生産・利用されている。開発した技術は、CO2を低コスト・省エネルギーで処理できるだけではなく、合成される化学品を有効活用できる。

 これまでに開発されてきた既存の処理技術とは違って発電所への導入のインセンティブが大きいことから、新技術はCO2排出量削減につながることが期待されるという。

 研究グループは今後、実際の火力発電所から排出されるCO2ガスを用いて反応を検証し、実用化したいとしている。